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恋愛小説『Lover's key』 #31-3 分岐点(teru's side)






 「え?…あ、何?……ごめん、どうした?」


 「……」


 唇にキュっと力が入り固く閉ざす。怒るわけでもなく笑うわけでもない美月。ただひたすら泣くのを我慢している。


 無言が俺の不安を煽る。なんだか別れの時の再現みたいになってしまって少し焦っていると、律がオレの荷物を抱えながらこっちまで様子を見に来てくれた。


 「どうしたの?」


 「うん…美月のことたまたま見かけて声かけたんだけどさ…。なんかオレ、やらかしちゃったかな…」


 2人の視線が美月へと注がれる。すると閉ざしていた美月の唇が動いた。


 「“またな”……って、もう言わないで……」


 小声だけど芯の通った発言にオレと律は顔を見合わせた。さっきオレが何気に言った“またな”が美月の地雷を踏んだらしい。あまり深く考えずに出た言葉だったけど、関係性を考えると“またな”は無いな…と改めて思う。


 約束をして“また”会うような間柄じゃねぇのに…。オレから別れを告げたのに期待持たせるような言葉は使うべきじゃないと今更ながら悟った。


 空気読めてねぇのはオレだ。言動に慎重さが無くてつくづく自分でも呆れる。


 「…わかった。ごめんな…」


 咄嗟にそう告げると、美月は無言のまま頷いた。


 通りがかるヤツらの大半はおかしな空気のオレらをチラ見していく。


 「…ここじゃ何だしさ…俺らももう帰るから、本多さんもよかったら外まで一緒に行かない?」


 律なりの配慮だと思う。周りの視線から庇うようにそんな提案をした。


 いつも歯車が狂わないように動いてくれる潤滑油みたいな存在の律。なんせ参謀気質だし。オレももっと気が利いたら律みたいな人間になれんのかな…。


 美月も仲裁が入ったことでハッとなり、周りを見渡してやっと視線に気づいたのか、恥ずかしそうにこくりと頷くと3人で階段を使って外へ出た。




 *******




 「寒っ!!!」


 そんな言葉が思わず出てしまうくらい、室内と外の寒暖の差は激しかった。慌てて手に持っていたダウンジャケットを羽織る。


 しかも風が昼間よりも強くなってる。こりゃ、帰りもマヒャドの攻撃を受けながら帰るしかねぇ。


 「本多さんはこのまま駅まで?」


 律が優しい口調で訊ねる。少し落ち着きを取り戻した美月も「うん。みんなは…?」と受け答えた。


 「俺は、これから彼女と待ち合わせなんだ」


 「あ、そっか。…彼女サン、元気?」


 「ああ、元気だよ」


 美月は律の彼女に直接会ったことがない。でも話には聞いていて知ってる。俺もチラっとしか観たことはねぇけど、2コ上の女で結構美人。


 どこで知り合ったんだよ?って聞いても、あんま喋ってくんないだ。どうやら秘密にしたいらしい。


 「い、一之瀬くんは…?」


 不意に聞きなれない単語が出てくる。美月には付き合ってからずっと『輝』と呼ばれていた記憶しかないからだ。

 
 付き合う前の呼び方に変えなきゃと思ったんだろうけど、なんか違和感あって慣れない。多分それは美月も同じなんだろう。最初のどもり具合でわかる。


 「あー、オレはとりあえず愛車で帰宅。…っつてもクロスバイクだけど」


 「……ふーん……そっか……。その後は…?」


 「え?」


 「…あ、の…えっと……ごめん、何でもない……」


 言葉を濁した美月の意図はなんとなく読めた。


 「家帰ったらあとは寝るだけ。あ、予習しながら深夜番組でも見るかな」


 笑いながら言ったら美月は目を丸くさせて「…ホント?」と何故か律に意見を求めた。


 「ホントだよ」


 律も笑みを浮かべながら答える。


 「な…んだぁ……。てっきり前に言ってた好きな人と一緒かと思った…」


 そんな安堵の表情を浮かべる美月の前で、オレはかなり複雑な心境だった。


 だってさ、オレの好きな人=由愛なわけで。


 由愛+センセ=結婚なわけだし。


 オレ-由愛=敗北は決定的で。


 テキスト上の難しい問題は頑張ればなんとか解けるけど、この人生における関わり合いの方程式はどう足掻いても崩せやしない。


 「好きでも色々あんだよ…。いいじゃん、別に。クリスマス一人だって」


 自分を奮い立たせるように吐いた言葉は、何だか負け惜しみみたいで嫌だった。


 「……そうだよね…」

 

 美月は安堵の表情を崩さず話を続けた。


 「来年はきっとお互い誰かと過ごしてるかもしれないし…」


 励ましにも取れる会話が一転。空かさず律からの突っ込みが入る。


 「え…寧ろ来年こそはムリじゃないかな…。今の時期はセンター試験の追い込みで忙しいと思うけど?」


 的確すぎる突っ込みに、みんながあははと苦笑いする。


 「……だよな。違いない」


 オレがそう言ったら美月もやっと笑顔を見せてくれた。


 「そっか、来年は恋愛どころじゃないかぁ…」


 ふと空を見上げた美月に倣ってオレも夜空を見上げる。一瞬強めの風が吹いて3人で身を縮めた。


 「くっそ、なんだよこの寒さ…。悪いけど、オレもう帰るわ。お前ら駅までルート一緒だろ?オレ、裏道抜けてくからさ」


 そう告げると律も美月も寒さを堪えながら頷いた。


 「じゃ、また1時45分にな。明日は遅れんなよ!」


 律に念を押され、「おお、気をつける。じゃーな」と受け答えて。


 「気をつけてね!!」


 「おー」


 そんな会話を3人で投げ合いながら、それぞれ行く方向へ足を進めた。





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