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恋愛小説『Lover's key』 #31-2 分岐点(teru's side)






 そんな突飛な行動に驚いた律が、不思議そうにオレを見ながら訊ねた。


 「何だよ…どうしたの?」


 「んー…なんか色々思い出した……」


 「ふーん…」


 「……」


 「……」


 ふーん…って。それで話終わりかよっ!!


 と、突っ込みそうになったもののすぐに言葉を飲み込んだ。そーゆーとこが律らしくてなんか妙に納得したからだ。聞く気が無いわけじゃないんだろうけど、あえて聞かない。深読みのできる律らしい選択。こういうのってオレ的には面倒臭くなくて有り難い。


 それにしてもさ。今日はクリスマスだっつーのに、なんでオレは講習しか予定がねぇんだよ。


 この後律だって彼女と待ち合わせだしさ。達哉はもうすでに彼女と遠出で遊びに行ってるだろうし。壮汰だって、彼女居なくてもきっと家族団欒で飯食ってるだろうし。あいつの家族は仲いいから…。


 ───なんだ…。結局はオレだけがひとりぼっちじゃねーか。


 そう思ったらなんか情けなくて。自棄になってさっき買った缶コーヒーの残りを一気に飲み干した。そしてゴミ箱に捨てに行こうと立ち上がり、自販機前まで行ったときにふと視界に入った姿に足を止めた。


 見覚えのあるヤツが目の前の廊下を歩いていて、思わず目を見開く。そして、缶を投げ捨てて咄嗟に廊下へ出た。


 「おい。美月!」


 なんで呼び止めようと思ったのか自分でもわかんねぇ。だけど、気づいたら声が出ていた。


 突然の出来事にあわを食ったような素振りで振り向いた美月は、オレの顔を見るなり複雑そうな表情をしていた。


 「なんだよ、お前もここ通ってんの?」


 声かけた手前、何か言わないとと無難に会話を投げかける。


 「うん…」


 美月はオレの顔を直視せず、緊張しているのか視線を少し泳がせながら話を続けた。


 「……別に…追いかけてきたわけじゃないよ…?期末の成績下がっちゃって…ここのゼミ評判いいからって親に勧められて…そしたら偶然……」


 一生懸命弁解をする美月は、誤解を恐れているように見えて。まぁあんな風に別れてゼミで再会じゃ、弁解したくなる気持ちがわからないでもない。でも、オレはそんなことは正直どうでもよかった。


 「いや、……それは別に気にしてねぇけど…」


 「………」


 美月と別れてから3週間くらいしか経ってないけど、その間オレの頭ん中は由愛のことばかりで。ガッコウでもすれ違うことはなかったから、もしかしたらオレに会わないように美月のほうが配慮していたのかも…。


 オレは美月に酷いことをして迷惑を掛けた。だから本当は頭が上がらないのはオレのほうなのに…。そう考えると申し訳ない気持ちになる。ここでよそよそしくなるのは嫌だったからとりあえずは普通に会話しようと決め、再びオレから話かけた。


 「もしかして同じ科目受けてた?」


 「あ…うん。最初の英語だけ……。少し遅れて入ってきた姿を見てビックリしたから…。相変わらず目立つよね…」


 「これから帰り?」


 「…うん。早く帰らないとウチのケーキが無くなっちゃう。今日…クリスマスだし…」


 「……。そっか…」


 クリスマス…。もし、あのままオレたちが続いていたら、今日は間違いなく一緒に過ごしていた。多分、美月も会話中そんなことを考えているだろう。


 人生ってさ、木の枝みたいに分岐点が沢山あって。それは自分でも気づかぬうちに直感で選んでいると思うんだ。地の根っこから始まって、水を吸い上げる順序でそれぞれ行ける方向に進んでいく。途中で色んな方向から来た水と出会い、でもまたどこかのタイミングで別れる。


 …そんな感じで美月とオレは一度は別れて、偶然にもこうしてまた別な道で出くわしたけど、運命的なものを感じるかと言えばそれは全く無かった。ただ、多少なりとも縁と呼べるものはあるんだと思う。


 恋愛って何だろうなぁ…。考えれば考えるほどわかんねぇや。こんな風に少しでも縁があるヤツを本気で好きになれたらきっと楽なんだろうけど、オレのココロが許してくれない。


 愛する気持ちは由愛に再会して初めて知った。でも相思相愛はまだわからないまま。早く知りたいなんて焦ったって仕方ない。由愛への気持ちが冷めるまでは、暫く恋愛は封印だな…。苦い水は口にもできないから。


 ───美月と他愛ない話を二三交わしながら、ふとそんなことを考える。


 そして、会話が途切れた時点でオレは美月にこう切り出した。


 「呼び止めてごめんな。じゃぁ、オレもあっちで律待たせてるから。またな…!」


 単純な締め台詞のつもりだったんだけど、美月は「…えっ…?」と、目を丸くしてオレを見る。そして、唇を歪めた。


 「……“またな”って……なんで…?…それは…………っ」


 小声で何か言ったけどオレには語尾がよく聞こえなくて。


 そのかわり、顔を赤くして泣くのを我慢している美月の表情に驚いてしまった。







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