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恋愛小説『Lover's key』

#17-3 曖昧な自分(yua's side)







そんなだから、今はどんなにあがいても岸には辿りつけない。



すぐに答えを見つけることはできないと、自分でも十分分かっていた。





「進一、話の続きはご飯食べながらにしよっか?お腹空いたでしょ?」



私はちょっと重い雰囲気を変えたくて、笑顔で進一の腕を解きベッドから下りた。



「あ……うん。そうだな」



そんな私の対応に、進一は一瞬渋った顔をしながらも応えてくれて。



ほっとしながら、私は急いで服に袖を通した。お互い身なりを整えてから、一緒にリビングに戻る。



私がキッチンでもう一度お料理を温め直している間、進一はリビングでテレビを見ながらビールを飲んで待っていてくれた。





───進一は、今何を考えているんだろう…?





何故かそんなことがすごく気になった。



せっかくしてくれたプロポーズ。それなのに、私から出たのは煮え切らない返事。



男性側からしたら、彼女のそんな曖昧な態度は予想外だったはず。もしかしたらかなり落ち込んでるかもしれない。私は次、何て声をかけたらいいんだろう?何もなかったように振舞っていいんだろうか?



ダイニングテーブルに温め直したお料理を並べる。進一の好きな和食。今日のために色々作ったんだけど、やっぱり出来立てを食べてほしかったな…。



 一通り並べ終えると、進一は私の予想に反して、ニコニコしながらこちらに来て椅子に座った。



「ホント、由愛の料理は美味そうだよな」



その笑顔と優しい一言で、なんとなく場の空気が変わった。良かった…。重い空気の食卓にはならなそう。進一の気遣いに感謝しなきゃ…。



2人で向かい合わせに座って、「いただきます」をした途端、進一は嬉しそうにご飯とおかずを一遍に頬張った。ほっぺたが木の実を頬張ったリスみたいになってて、私は思わずぷっと吹き出してしまった。



「なんだよ?笑うなっ!」



そう言われたって、笑いはすぐには止まらないよ。ご飯は逃げないから、もっとゆっくり食べていいのに…。



でも、進一のお陰でますます食卓に漂う空気が柔らかくなった。もしかしたら私に笑ってほしくて、進一なりに考えた上での行動なのかも。



「やっぱ旨いよ!由愛の料理は。ホント俺好み」



そう言いながら、進一はお味噌汁をすすった。私もそんな姿につられて、まずはお味噌汁から手をつける。



進一とこうして一緒にご飯を食べるのは好き。私が作ったものを本当に美味しそうに沢山食べてくれるから。



つい最近まで、こんな些細なことでも嬉しいくらい進一が大事だと思っていたのに…。



この間一緒に住もうって言われたときも、飛び上がるほど嬉しかったのに…。



心の隙間…満たされない気持ちなんて、きっと他の誰もが抱えてることなのかも知れない。寂しい気持ちだってそうだ。でも、それが積もり積もってしまっている私は、何が正常なのか、何が正しいのか判断できなくなってる。



今は離れてることが多いから、こんなに不安なのかな?もしかして一緒に住んだら簡単に解消されることかも知れないから…やっぱり進一について行ったほうがいいのかな?



ふと、私の母の顔が頭に浮かんだ。母にプロポーズされたことを話したら、きっと喜ぶと思う。母は進一のことをとても気に入っていたから。



確かに女の子を持つ親としたら、誰もが進一のようなエリートで、将来安泰な人の所に嫁いで欲しいと願うだろう。



だから、絶対に反対せずに、むしろ「何を悩むことがあるの?安心してついて行きなさいよ」と言われることは目に見えていた。



本当に…どうしたらいいんだろう……。



そんなことを考えながら黙々と箸を進めていると。



「そういえば、この間カテキョの代理ありがとな」





───ドキン。





急にテルくんの話を面と向かって言われて、心臓が飛び出る程驚いた。同時に箸を持ってる手が少し震える。



「いいえ。どういたしまして。テルくんの答案用紙、進一にあとで渡すね」



なんとか動揺を隠そうと、私も間を空けずに受け答えた。



「うん。わかった。…それでさ……実は俺、カテキョ来週で最後になるんだ」



思わぬ話に私は目を見開いた。



「へ、へぇ~。そうなんだ。でも進一最近忙しいし丁度いいんじゃないかな…」



テルくんと進一に接点が無くなる……。そんな風に思ったら、なんかちょっとホっとする自分が居て。なんだか複雑な感情だった。



「そうなんだけどさ……。輝、弟みたいだったから俺は結構楽しんでカテキョやってたんだよね。だから少し寂しくってさ」



「そっかぁ……。残念だけど…仕方ないよ」



私は煮魚の骨を除けるふりをして、視線を進一と合わせないようにしながら当たり障りなくそう答えた時。



「まぁ、実際…ちょっと間違ったら本当の弟だったかもしれないんだけどさ」



「…………えっ?」



思いがけない言葉が耳に入ってきて。私は驚きを隠せないまま顔を上げて視線を進一に向けた。





それは……一体どういうことなの?





本当の弟って……何?







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