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恋愛小説『Lover's key』

#14-2 胸騒ぎ(shinichi's side)






「おはよ…」



俺は親父に挨拶をしながら席に座った。



「おはよう、進一。久しぶりだな。出張どうだった?」



「うん。まぁまぁ」



「なんだ?そのまぁまぁってのは…」



「だって話してもわかんないだろ?」



俺はそう言うと箸を取り、飯を食べ始めた。



「まったく……」



親父も呆れた顔でそう言いながら味噌汁をすすった。




・・・なんとなくこの会話が弾まない感じにまだ慣れない。



本来なら、この食卓には2つ上の姉さんも居るはずなんだけど、先月結婚してもうこの家には居ない。



姉は明るくてよく喋る人だったから食卓はもっと賑やかで、オレと親父の会話に茶々を入れることが多かった。



それなのに、姉が居ないだけでこんなに会話に花が咲かないなんて。親父もちょっと寂しそうなんだよな。



姉の存在は家の中でかなり大きかったんだと思い知らされる。





沈黙を打ち破るかのように、また親父が喋り始めた。



「おおそうだ、進一。一之瀬さんのところから昨日電話があって、家庭教師もういいって言われたぞ?」



「あ…。え?そうなの?」



思わぬ話に驚いて箸を休め、親父を見た。



「進一ここのところ忙しいし、このまま見てもらうのも気が引けるって言うんでな。あちらさんも塾に通わそうかと思ってるらしい」



「へー。そうなんだ。まぁでもそうしてもらえると助かる」



俺はそう言うと、また飯を食い始めた。ほぼ食い終わった頃、そうだ・・・と思い立って話を切り出した。



「実は俺さ、、、来月海外出張なんだ」



「え?」



親父より先に母さんが驚いていた。



「で、もしかしたら4月から海外赴任になるかも」



「何よ…突然。……海外ってどこなの?」



母さんが心配そうに聞いた。



「フランス。今、会社がヨーロッパのほうに力入れてて、あっちで共同開発することになったんだ」



「進一・・・すごいじゃないか」



「え?あ、、、まぁ、、、そうなのかな?」



まさか親父から褒められると思わなかったから、少し照れる。



「まだ正式決定ではないんだけど、ほぼそうなるだろうって上司に言われてて。だから、家庭教師は長くできないと思ってたところだったんだ」



輝は人懐っこくて弟みたいだったし、なんとなく通えなくなるのは寂しい。でも、仕方ないよな。。。



「じゃぁ、、、悪いけど来週の土曜日で最後にしてもらうよ。輝の親にも俺から挨拶しとくから」



「そうだな。一応父さんからももう一度連絡入れておくよ」



「うん。よろしく」



そんな話をしてたらあっという間に家を出る時間になってしまった。



「ヤベっ!そろそろ出ないと。ごちそうさま」



そう言って急いで歯を磨いて。俺はバタバタとしながら家を出た。






冬の朝は寒さが身に応える。コートのポケットに手を入れながら黙々と駅まで歩いてるときに、今朝の話を思い出していた。



姉さんも居なくなって、俺まで居なくなったら親父も母さんも寂しがるだろうな…。まぁ俺の場合、海外赴任は2年間の予定だけど。



でも、長引く可能性もあるから……。やっぱり由愛とのことはしっかり固めないとだめだなって思ってる。



さっき、もう少し時間があったら、由愛のこと両親に話してたかもしれない。里香のことで俺はかなり落ちこんで親に心配かけたし。



まぁ、薄々は彼女が居ること気づいてるとは思うけど、正式に由愛を彼女だと紹介したことは無かった。



由愛が俺と結婚して家に入ったら、両親も寂しくないかな?



なんて。



そんなことを思ってると。



ふと、由愛からの連絡が無いことが妙に気にかかった。



電車の中で再び携帯を開いてメールをチェックしてみたけど、やっぱりメールは来ていない。



由愛、どうしたんだろう。。。今まで、返信が無いなんてことは一度もなかったのに。だから余計に不安になる。



電車を降りてから、もうこれ以上待っていられなくて。歩きながら由愛の携帯に電話を掛けた。



~♪~♪



俺が好きなMAROON5の待ちうたが聞える。・・・でも、なかなか出ない。少し長いな。



「・・・もしもし」



やっと耳元に飛び込んできた由愛の声は心なしか元気が無いように聞えた。



「あ、由愛おはよ」



「…おはよう……」



「俺、昨日帰ってきたんだ」



「…うん。昨日メール見たよ」



「なんだ、起きてたんだ?寝てるかと思ってメールにしたのに」



「…うん……。ごめんね……」



「………」



何だろう……。この間合い。この感じ。いつもの由愛じゃない。



「由愛、どうした?何かあった?」



俺は嫌な胸騒ぎがした。



「…。ううん、別に…何も無いよ?」



あーーくそっ!電話じゃ顔が見えないからどんな状況なのかわかんなくてもどかしい……。ホント、どうしちゃったんだよ?



「由愛さ、俺今日仕事少し遅くなるかもしれないんだけどそれでも会える?ちょっとだけでも会いたいんだ」



「……忙しいのに会いたいっていうなんてめずらしいね。…何かあったの?」



それはこっちのセリフだ。



「会いたいって言っちゃダメなのかよ」



「ううん。ダメじゃないけど…。あ…じゃぁ、今日じゃなくて明日じゃダメかな。明日、お母さん夜勤で居ないから、いつもみたいにうちで一緒に夕飯食べない?」



「…食べる」



「じゃぁ、明日にしよ?ウチに来る前に一度メールちょうだいね」



「わかった……」



「じゃ、お仕事頑張ってね」



そう言い終えると電話は切れた。






・・・何だろう、本当に嫌な胸騒ぎがする。



最後のほうの会話はムリしてるように聞えた。



一体、何なんだよ……。どうしちゃったんだよ??



由愛に会うまでこのモヤモヤから抜けられそうになかった。






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