ドイツで聴いたオペラとコンサート | 岩下智子「笛吹女の徒然日記」Tomoko Iwashita

岩下智子「笛吹女の徒然日記」Tomoko Iwashita

フルート奏者 岩下智子が綴る気ままな日記です。

こんにちは!
フルーティストの岩下智子です。

少し前になりますが、2019年9月末から10月初めまでの10日間、ドイツに行ってまいりました。今回の旅行は、ミュンヘンで開催された「第4回テオバルト・ベーム国際フルートコンクール」の審査とフェスティバルコンサートでの演奏のためでした。

コンクールにつきましては、あらためて詳細を専門誌に書くことにしまして、ドイツ滞在中に聴いた演奏会について、備忘録として、こちらに書き留めておきたいと思います。

昼間にコンクールの審査をやって、夜には楽しみな歌劇場に通う毎日でした。ミュンヘンては、バイエルン国立歌劇場は新シーズンが始まったばかりで、世界的に人気のある歌手ヨーナス・カウフマンが主演の『オテロ』を皮切りに、つい先月ベルリンフィルの音楽芸術監督に就任したばかりのキリル・ペトレンコとバイエルン州立オーケストラとのコンサートもあり、どの演奏会も世界中のお客様が集まるほどの盛り上がりでした。



私もコンクールの日程に合わせて、可能な限り、日本でチケットを予約し、下記の素晴らしいコンサートを聴くことができました。

①2019年9月28日
ヴェルディ『オテロ』: カウフマン主演(バイエルン国立歌劇場)
カウフマンがオテロ!?と驚く方が多いと思いますが、役のために身体を大きくした(?)カウフマンは、見事に苦悩のオテロを歌いきりました。カウフマンはじつに演技が上手いですねぇ。彼の声はご存知のように太いわけではなく、情感たっぷりのソフトな声質なので、オテロの惑う心情を吐露するような歌いっぷりは絶品でした。演出は現代風に読み替えされており、却ってカウフマンの身体の小ささが目立ってしまうのではないかと思いましたが、真と偽の2つの世界をモノトーンで表現したのは理解できました。デズデモーナ役の歌手は、正確に歌うものの、優しさや弱さなどが足りない気がします。どちらかというと気丈なデズデモーナになっていました。


②2019年10月1日
スメタナ『わが祖国全曲』: K.ペトレンコ指揮、バイエルン州立オーケストラ (バイエルン国立歌劇場)
幅広い聴衆に人気のあるペトレンコが、今期からベルリンフィルの芸術監督になり、8月末に第九でシーズンを開幕したのも記憶に新しいですね。しかし、長年ミュンヘンで君臨し、このオーケストラを活気のある演奏をするオーケストラに発展させた功績は計り知れません。その集中力と細部に渡る指示により、オーケストラのハーモニーにも深みが増した気がします。
それで、当の『わが祖国』は、第一曲目から気合いの入りまくった演奏になって、第二曲目の「ヴァルダヴァ」までが長く感じられましたが、ヴァルタヴァ(モルダウ)川の流れは、チェロ・バスの低音をよく鳴らして、深みがありました。フルート2本の演奏もお見事! しかしながら、ペトレンコの指揮下では、オーケストラが一音たりとも気を緩めない感じで、素晴らしいけれど、神経使いそうだなぁと、演奏者側からの感想です。

③2019年10月2日
ヴェルディ『椿姫』: A.ペレス主演(バイエルン国立歌劇場)
『椿姫』は、私のオペラ体験のスタートである特別なオペラなので、今回ミュンヘンで上演されるとなったら、観ないわけはいきません!ミュンヘン滞在中の仕事で一番ハードな日だったにもかかわらず、夜は劇場へ足を運びました。バイエルン歌劇場の舞台は横幅が広くないので、合唱が数多く出てくるこのオペラでは、演出が物を言うだろうなぁと注意深く観ていましたら、想像した通り、乾杯の歌の場面では、重なり合いながらも、グラス替わりに緑のライトを持って、うまく光と共に演出していましたし、他方の場面では花畑などで色調豊かに工夫していました。主演のヴィオレッタのペレスは安定した高音で美声を響かせていました。もう少し、父親と息子の間で悩んでいる様子が、演技で表現できたらいいのになぁと、あの手紙を書くシーンで思いました。私の頭の記憶には、フレー二やナタリー・デセイのヴィオレッタの演技と歌が染み付いているので、どうしても重ねてみてしまいます。