◆コンポージアム2012 『細川俊夫の音楽』 | 岩下智子「笛吹女の徒然日記」Tomoko Iwashita

岩下智子「笛吹女の徒然日記」Tomoko Iwashita

フルート奏者 岩下智子が綴る気ままな日記です。

 先日の5月24日、今年の武満徹作曲賞の審査員である細川俊夫さんの「コンポージアム2012」を聴きに、新宿オペラシティへ行ってきました。




 今やヨーロッパから日本を発信する作曲家として、世界で注目を浴びている細川さんですが、私自身も、彼の独特な透明感ある音の世界に魅せられ、昨年フルート曲「歌、Lied」を演奏したばかりです。

 コンサートは、まず予想通りの笙の演奏「光に満ちた息のように」から始まり、悠久の細川ワールドに観客を導き、そして、オーケストラのための「夢を織る」(日本初演)に引き継がれました。

 という楽器は、美しいハーモニーを作り出す雅楽器で、17本の細い竹を束ねてあり、そのうち15本の管だけにリードがついています。5度(4度)を中心とした音の倍音が連なり、音がプリズムのように広がっていきます。この楽器は、息を吹いても吸っても音が鳴るので、たえず音を鳴らすことが可能で、5つまたは6つの音を同時に鳴らせることもできるところが永遠の響きを感じる所以でしょう。

                                            笙の音律


 
 続いてのオーケストラの「夢を織る」は、これまた細川ワールドの醍醐味で、細川さん自身の言葉によると、母体の中の胎児が聴く音響をイメージした曲だそうですが、私はその解説を読む前にこの曲を聴いていて感じたのは、暗黒の途切れのない宇宙に漂う星雲がホール内に広がり、そこに散らばった星たちがキラキラと煌めき、ときに流れていく、そんな印象を持ちました。特に、弦楽器群のフラジオ奏法(倍音)と低音と高音の間を行ったり来たりするグリッサンドの連続から、摩訶不思議な世界が目の前に広がってきました。

 後半も笙の演奏「さくら」で始まり、最後に大作「星のない夜」ー四季へのレクイエムーソプラノ、メゾソプラノ、2人の語り手、混声合唱とオーケストラのための作品が演奏されました。これは、1945年のドレスデン空襲と広島の原爆投下を題材にした、メッセージ性の強い壮絶な作品でした。心の激しい動揺とともに、この世の哀れを感じるさせるものであり、私には、天使が空から戦争の焼け跡を嘆き眺めて、憤っている様子が目に浮かんできました。この曲では、アルトフルートのソロもあり、笛吹きの私としましては、じっとしていられなく、あの息の吹き込みと重音奏法に集中したというのは言うまでもありません・・・。(笑) 弦楽器群の弓を上下に激しく揺らすトレモロ(音の急速な反復)も心の不安、動揺をよく表していましたし、メゾソプラノの藤村さんの落ち着いた声も印象的でした。

 後でプロフィールを拝見してわかったのですが、細川さんは広島出身でいらっしゃるとのことですので、改めてこの曲のために精魂尽くされ、力を注がれた意味がわかりました。細川さんは、この曲を書いていらっしゃるとき、いったいどんなお気持ちだったのでしょう・・・。

 演奏は、準メルクル指揮:NHK交響楽団、笙:宮田まゆみ、ソプラノ:半田美和子、メゾソプラノ:藤村美穂子、東京音大合唱団
 
 余談ですが、我が娘も6月1日に細川さんの新作ヴィオラ協奏曲を紀尾井ホール(ヴィオラスペース)で、オケの一員(Vl奏者)として演奏します。フラジオがんばって弾いているそうです。私も、また近い将来、細川さんの曲を再び演奏したいと思っています。