部屋に戻るとアタシたちは、夕食の時間まで奥の応接セットのようなところで休むことにした。
窓から庭が見渡せて、すごくいい景色。
そこで次の日どこに行くか、持ってきたガイドブックを見ながら話し合う。
いつもならガイドブックなんて買わず、ネットでさくっと調べて終わりのアタシ。
でも今回は、アタシにとって特別だから、“後にも残るもの”がほしくてつい買ってしまったのだ。
これさえあれば、何年か後になっても、いつどこへ行ったかの記録になる気がして。
「ご飯の時間まで布団が敷いてないってのが旅館の痛いところやな~。ラブホやったらいつでも休めるのに」
ムードのないことを言う恋人。
(あんたは寝過ぎやねん。笑)
心の中で突っ込む。
「それにしても、さっきの酸素カプセル、めっちゃよかったなぁ」
「うん、気持ちよかった~」
「途中、爆睡やったわ」
「え、あの20分間で!? それはある意味すごい」
「任して! 寝付きのよさはのび太にだって勝てる自信あるし」
威張る彼。
「あれ、家にほしいわ~」
「そこまで!?」
「うん、気に入った。でも置く場所がないな~」
冗談なんだか本気なんだか……。
「もうな、三十路ともなると、身体の回復力が衰えてくるわけよ。――変な話、夜だってな、10代とか20代前半の頃は、ホンマ何回でもできたねん。でも、今はもう1回でヘロヘロになる。体力もたへんもん。見ててわかるやろ?」
「え?……ま、まぁ……」
そんなこと訊かれたって返答に困る。
「今、何時やろ。ご飯、7時で予約したよな?」
彼はそう言いながら、ケータイを取りにテーブルのほうへ戻る。
「うん、7時やった。もうあと10分ぐらいちゃう?」
「お~、すごい! ばっちり10分前やわ」
「マジで!? アタシ天才やなぁ♪」
「何言うとんねん(笑)」
鼻で笑いながら、彼は座椅子に腰掛けた。
「この椅子、座り心地がいいよな」
「そやね~。アタシも思った!」
「なぁ……」
「ん?」
「……こっちおいで」
ドキッ。
「……うん」
彼のそばへ行く。
「椅子、持っておいで」
「うん」
アタシは彼の向かいにあるもうひとつの座椅子を彼の隣につけ、そこに座った。
すると、彼がキスをしてきた。
しかし、阻むものが……。
「……これ、邪魔やな」
お互いの間にある座椅子の肘掛けを外す。
これで心おきなく
アタシたちは抱き合って、何度も何度もキスをした。
「……アカン、こんなことしてたらしたくなる」
彼は唇を離した。
「……そろそろ時間かも」
アタシが言うと、彼がケータイで確認する。
「ホンマや、3分前や。そろそろ行こっか」
「うん」
少し乱れた浴衣を整え、準備をする。
そして、食事の部屋へ。
アタシたちが選んだ“神戸牛”のプランは、部屋食ではなく、レストランでのビュッフェ形式。
温泉旅館らしい和風で粋なレストランにて、身体にやさしいマクロビオティックを取り入れた料理を食す。
彼、初公開。
後ろにちょっと見えてるでしょ(笑)
そしてこれが神戸牛~
お肉をお箸で食べるところがなんだかおしゃれ。
でもって、この神戸牛のステーキ、め~~~~~っちゃやわらかくてめ~~~~~っちゃおいしかったぁ~
肉好きな彼も大絶賛でした!!
食後には、デザート&コーヒーでまったり
お腹も満たされ、大満足でレストランを後にした。
部屋に戻ると布団が敷かれていた。
なんだかドキドキしてしまう。
「お~、やった~」
彼がバタンと寝転がる。
「まだ食べたばっかりやで~。牛になるで~」
「牛食べてきたしな~(笑)」
「共食いや、共食い(笑)」
そんなことを言いながら、アタシはバッグの中を整理する。
「貸切風呂は9時やったな?」
「うん。でも10分前に受付って言ってたから、あと1時間ぐらいしたら行かなアカンね」
「そっか。案外早いもんやな。よし、じゃあゆっくりしたいし歯磨きしてくるわ」
彼は歯磨きをしに行く。
(上の写真はその隙に撮りました)
彼が戻ってくると、今度はアタシ。
歯磨きをした後、トイレに行くと、なんだか嫌な予感がした。
日にち的にはもうそろそろ来てもいい頃。
なんとかもうちょっと待って……と、希う。
戻ると、彼はすでに手前の布団に横になり、テレビを観ていた。
アタシが奥の布団に乗ると、
「これ、もっとくっつけよっか」
と、彼はアタシが乗った布団を自分のほうへ引き寄せる。
これで隙間がなくなった。
ギュッと抱き合う。
そしてキス。
「今日は来れてよかった。……ホンマありがとね」
アタシは彼の耳元でささやく。
「いえいえ、こちらこそありがとうな」
そんな幸せな時間はあっという間に過ぎていき、ふと気付くと9時15分前。
準備をして、貸切風呂の受付に向かう。
ロビーへ行くと、スタッフの方がすでに待機していた。
そこで説明を受ける。
そのまま浴場まで案内された。
アタシたちが選択したのはワイン風呂。
といっても、ワインが入っているわけではなく、砂岩の色でお湯がワインのように見えるということでついた名前なんだとか。
7年目にして初めて一緒に入るお風呂。
ちょっと緊張する。
浴室は、2人で入るにはもったいなさすぎるほど広かった。
奥は全面ガラス張りになっていて、ものすごい絶景!!
「うわ~、めっちゃキレイ」
アタシは窓際に寄り、思わず叫ぶ。
彼はそんなアタシをニコニコしながら後ろで見ていた。
背の低いアタシは、こういうところでお尻をつくことができないため、段に腰掛ける。
すると彼が隣にやってきた。
そして唇を寄せてくる。
「こんなことしてたらのぼせそうやな」
「うん、のぼせそう……」
そう言いながらも彼はアタシの胸を触ってくる。
湯越しに彼のそこが隆起してくるのが見え、ドキドキする。
「……アカン。入れたいけど、そんなんしてたら時間過ぎてまうしな」
彼の手は、アタシの一番敏感なところへ移動する。
「あ……あん……」
お湯のピチャピチャという音に混ざり、アタシの声が浴室中に反響する。
それがとてもいやらしくて、アタシは一層感じてしまう。
油断したら沈んでしまいそうで、彼にしがみつくようにして抱きついた。
「……そろそろ時間切れやな。続きは部屋に帰ってから」
彼はかすれた声でそう言うと、アタシの頭をポンとたたき、軽くキスをして湯船を出た。
貸切風呂を後にし、アタシたちはそのまま部屋から一番近い浴場へ。
この日、最後の湯。
ここは「金泉」と「銀泉」のどちらもあった。
生理の前兆なのか風邪気味なのか、少しだるい。
それを懸命に押しのけ、体を洗う。
思いのほか、時間がかかっていたらしく、部屋に戻ると彼がとても心配していた。
「遅かったから、どっかでぶっ倒れてるかと思ったわ」
アタシは小学校高学年の頃から、毎年必ず1、2回、突然気を失うことがある。
普段、ものすごくタフな反動なのかもしれない。
それを彼は知っているので、心配してくれたようなのだ。
「ゴメン、心配かけて。ちょっと混んでて……」
「男湯は全然混んでなかったで。ていうか、ホンマに顔蒼いけど、大丈夫か?」
「うん、大丈夫、大丈夫。ちょっとのぼせたんかもね」
「そうか? ま、とりあえず、横になっとき」
優しい彼。
惚れ直してしまう。
しばらく横になると、ずいぶんと楽になった。
彼からも、顔色チェックでOKが出る。
「こっち来な」
彼は自分の側の掛け布団を持ち上げて誘う。
アタシはそこに潜り込んだ。
ようやく、さっきの貸切風呂の続き。
お互い、お預け状態から解放される。
その夜の彼は珍しく、間を空けずに2度求めてきた。
これも昼間に体験した酸素カプセルの「官能回春」効果!?
とにかく、そんなふうにして1日目が終了したのだった。
つづく ……