午前中の授業が終わり、小百合はいつものように学食でユイたちを待つ。
「お待たせぇ~。小百合ちゃん、今日は何食べるの?」
「今日はね、お弁当作ってきたんだ」
「マジで?ってことはゆいさんも同じお弁当ってことだよね?」
「うん。そう♪」
菜々たちは、チケットを買いチャーハンをトレイに乗せると、角の方の席に座る。
「さゆっちのお弁当見せて」
「いいよ。大した物じゃないけど」
今日のお弁当は豚の生姜焼き。敷き詰めたご飯の上に乗せた、ちょっと手抜きのお弁当。
「ん?ねぇ?玉子焼き、2切れだけ?それも端っこ」
「うん。変?」
「少なくない?」
菜々に言われても小百合は笑うだけ。
「いただきまぁ~す」
「小百合ちゃん、昨日は何してたの?」
「昨日はね、スタジオの先生と、あきさんが家に来たの。それでお昼をごちそうして。
後は、いつもの買い物」
「あっ、もしかしてシュークリームって。小百合ちゃんのところに行くためだったんだ」
ユイは先生とあきの顔を覚えていて、昨日店に買いに来た時に対応していた。
「うん。あれって初めて食べるけど。生地がサクサクで美味しかったぁ~」
「でしょう~。ななっちは昨日どうしてたの?」
菜々は渋って話そうとしない。
「どしたの?」
「・・・ケンカした。あのバカ」
ユイと小百合が理由を聞いているとき、ゆいは、打ち合わせが終わり、東京に戻る木野下たちを外へ見送っていた。
「気を付けてお帰りください」
「ありがとう。ゆいさんもね。じゃ~先生、来月ね!」
お腹が空いたゆい。ロッカーから楽しみにしていたお弁当を持って休憩室へ行った。
今日は、雨なので全員が休憩室にいる。
『あっ・・・手紙が読めない』
仕方がないので、手紙はポケットに入れ、包みを開ける。
「あ~っ❤今日は生姜焼きだぁ」
隣でコンビニ弁当を食べている瞳がゆいの弁当を覗いた。
「今日は小百合ちゃんのお弁当なんだ。美味しそうだね」
「なんか、今日は思い付きで作ってくれたみたいで」
「そうなんだぁ」
ここで瞳はゆいに余計なことを言う。
「小百合ちゃん、こんなに美味しそうなお弁当作れるのに、彼氏がいないって。
勿体ないなぁ。ゆいさん、小百合ちゃんってそれっぽい人とかいないの?
いつまでもゆいさんにお弁当じゃ、張り合いがないんじゃない?」
ゆいは、瞳に言われたことに反論もせず、うなずく。
「そうだよね。私は実験台ってとこかな。せっかく彼氏に作ってあげたくても、下手だったら嫌われちゃうからね」
「彼氏が出来れば、自然と上手になるよ」
適当に相槌を打ったゆいは、玉子焼きをかじる。
『美味しい~❤ん?今日はやけに玉子焼きが多くない?嬉しいけど』
きっとその理由が手紙に書いてあると思ったゆいは、早く手紙が読みたい。
でも、みんながいるし、隣は瞳。これではどうやっても読めない。
反対側の隣でサンドイッチを食べてる由紀が瞳の話を逸らすためにゆいに聞いた。
「お肉って、どっち使ってるの?ロース?バラ?」
「それがね、夜食べるときはロースで、お弁当はバラなの。こだわってるみたい」
「あ~、何となく分かる気がする。お弁当は食べやすい方がいいでしょ?切ってあるバラ肉だったら手間がないしね。小百合ちゃんの優しさかな?」
その話に瞳が輪を掛ける。
「そういう優しさをゆいさんじゃなくてさぁ~。誰かいい人いないの?」
目の前のあきは「逆効果じゃん・・・」と下を向く。
ゆいは瞳の言葉に苦笑いをするだけ。
今すぐ手紙を読みたいゆいは、弁当箱を片付けると、そのままロッカーへ。
一人になったゆいは、そこで手紙を読む。
『甘えん坊のゆいへ
今日は初めてお弁当を二つ作りました。
時々、偶然同じ物食べたりするけど、せっかくなら、同じお弁当を食べたいなって思って。
玉子焼きは、ゆいが好きなので、私の分も入れたよ。食べてくれたかな?
ゆい?私も、お母さんが亡くなってずっと寂しかったけど、今はゆいがいてくれるから寂しくないし、幸せだよ。
この先、もしゆいがまた寂しくて辛い気持ちになった時は、私がその気持ちを埋めてあげるから。
ゆいには私がいるから!
私だって、ゆいを守りたいんだから!
ゆいには、もっともっと甘えてほしい小百合より』
「だから、玉子焼きがたくさん入ってたんだぁ。今日も美味しかったよ♪
そうだ、今日は私がご飯作ろうかな。ハンバーグだって言ってたし、これなら私にも出来るから」
ゆいは、小百合に『ごちそうさま』のLINEを送った。
小百合は、そのメッセージを読んで、
『喜んでくれたみたいだね。良かった❤』と、自然と笑顔になる。
菜々のケンカの理由を聞いた小百合は、「ななっちは甘えたことはないの?竹本君はななっちにそうして欲しいんじゃないの?」と言ってみるが、「出来ない!」の一点張り。
当人同士は至って真剣に悩んでいるケンカ。
でも、小百合とゆいのケンカと比べたら、全然比ではない。
「ななっちが折れないと、収拾がつかなくなるよ。
悪いことは言わないから、ななっち、謝んなよ。
早いうちに言わないと、仲直り出来るものも出来なくなるから。
ほら、今、LINEしなよ」
小百合に言われた菜々は、孝之に謝りのLINEをした。