相沢沙呼著「マツリカ・マハリタ」読了 | 感想亭備忘録

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廃ビルに住む謎めいた魔女のような女性マツリカと、人と交わること、場に馴染むことが苦手で常に全力で後ろ向きな少年柴山。この二人、というか主従が謎を解き明かしていく物語の第2作。
前作は、マツリカはもちろん柴山も秘密を抱えていたので、最終話を除く3話は割と淡々と謎が解かれていました。今作は前作で明かされた柴山の秘密に起因する心情に、それぞれの謎が深くシンクロしていきます。周囲が楽しげに謳歌する青春のまばゆさ、その中には入っていけない自分。誰かの役に立ちたいと望みながら、役に立たないことを恐れためらう自分。一緒にいたいと願いながら、一緒にいるに足る理由を見いだせない自分。大切な人にの抱えるものを教えてほしいと願いながら、教えられても適切に返事が出来ないであろう自分。そういう葛藤や逡巡に沈む柴山に、謎が一つ解き明かされるたびに贈られる「ありがとう」の言葉。その言葉がほんの少しづつですが柴山を成長させていきます。そしていつしか彼の周りにも寄り添ってくれる「友達」と呼べる人たちが集ってきます。
 
マツリカと柴山の関係は変わりません。マツリカはあくまでサディスティックに優しく、柴山はマゾヒスティックに一途です。成長し変わっていくもの、変わらなければならないもの。そして変わらないもの、変わってほしくないもの。その両方が切なく描かれます。
でも、マツリカと柴山の関係もほんの少し変化したのかもしれません。ほんの少しだけですが。そしてマツリカの秘密もほんのすこし明かされます。ほんの少しだけですが。
 
前作「マツリカ・マジョルカ」は最終話のインパクトで全てをまとめ上げた感じですが、今作はすべての話を通じて少しずつ変化を見せていきます。青春と呼ばれる季節に誰もが感じた疎外感、孤独感、無力感をより強く意識する柴山や周囲の人々を通じて、自分のそのころを思い出してしまいました。さすがにマツリカのような強烈な個性の人はいませんでしたが(笑)
 
今のところこのシリーズは2冊で終わっているようです。いつの日か続編が書かれ、マツリカの秘密が明かされることを願っています。