みなさんこんにちは。

  去る7月24日に国連人権規約委員会の日本審査について、最終報告がまとめられました。

 性奴隷制度としての「従軍慰安婦問題」については、責任回避をしようとしているようにみえる日本政府の姿勢に「懸念」が表明され、またヘイトスピーチについてもこれをやめさせるべく有効な手立てをとるよう求めた、かつてない厳しい内容の報告でした。

 ところが、これを伝えた産経新聞7月25日の報道をみて驚きました。あたかも上の内容とは違うような報告がだされれたかのように誤解を招く書きっぷりになっていたからです。


「国連委/『慰安婦』日本に矛盾/ヘイトスピーチ禁止要求」

 ・・・見解は慰安婦問題について、日本政府が「慰安婦の強制連行はなかった」と主張しながら、平成5年の河野洋平官房長官談話が、慰安婦募集には「甘言、強圧によるなど、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くある」としているのは、「立場に矛盾がある』と指摘した。
 強制連行を示す資料が発見されていないにもかかわらず、河野談話が慰安婦募集の強制制を認めたことが突かれた形だ。・・・




 いろんな意見があってよいと思いますが、事実は事実としてその本質を正確に伝えるのが報道機関の最低限の仕事です。この点、産経が報道機関だとすれば、上の人権規約委員会最終報告は大誤報といってもよいと思います。

 国連委報告の趣旨は次のようなものです。

 「本人たちの意思に反して重大な人権侵害が行なわれた」ことを日本政府は認めていながら、一方で「強制はなかった」と責任回避のようなことをいっている。これは矛盾であり、そのことに懸念を表明する――そう言っているのです。

 これを産経は「強制連行を示す資料が発見されていないにもかかわらず、河野談話が慰安婦募集の強制制を認めたことが突かれた形だ」と書いているのですから、まるで慰安婦問題に関して日本を擁護したるかのような印象を受けます。

 なにより「懸念」というもっとも肝心な言葉が紹介されず、「矛盾」という言葉だけが引用されている点は、意図的に話をねじまげようとしたのではないかと疑わざるを得ません。

 そこで、8月1日、同社に以下の質問を行なっていました。以後1ヶ月以上待っていましたが、何の返事もありません。そこであらためて回答を催促することにしました。以下転載します。

 誤報にはいくつか種類があります。単純な間違いや、その時には最善をつくしたつもりだったが、後に誤りであったことが判明した例。これらの誤報と決定的に違うのが、意図的に捏造、あるいは歪曲の類です。同じ誤報でも前者と後者は質がまったく違います。

 上に紹介した産経の記事は悪質な「歪曲」の類に入る恐れがあります。

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産経新聞広報課御中

 ジャーナリストの三宅勝久と申します。2014年7月25日朝刊「国連委/『慰安婦』日本に矛盾/ヘイトスピーチ禁止要求」の記事に関して以下質問させていただきます。回答のほど、ご協力お願い申し上げます。

 同記事には、

〈見解は慰安婦問題について、日本政府が「慰安婦の強制連行はなかった」と主張しながら、平成5年の河野洋平官房長官談話が、慰安婦募集には「甘言、強圧によるなど、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くある」としているのは、「立場に矛盾がある』と指摘した。

 強制連行を示す資料が発見されていないにもかかわらず、河野談話が慰安婦募集の強制制を認めたことが突かれた形だ〉

 とあります。

 この記事のニュース源である自連自由権規約委員会の最終見解の「慰安婦」に関する部分をみると、以下のとおりとなっています。

〈 14. 委員会は、締約国が、慰安所のこれらの女性たちの「募集、移送及び管理」は、軍又は軍のために行動した者たちにより、脅迫や強圧によって総じて本人たちの意に反して行われた事例が数多くあったとしているにもかかわらず、「慰安婦」は戦時中日本軍によって「強制的に連行」されたのではなかったとする締約国の矛盾する立場懸念を表明する。委員会は、被害者の意思に反して行われたそうした行為はいかなるものであれ、締約国の直接的な法的責任をともなう人権侵害とみなすに十分であると考える。委員会は、公人によるものおよび締約国の曖昧な態度によって助長されたものを含め、元「慰安婦」の評判に対する攻撃によって、彼女たちが再度被害を受けることについても懸念を表明する。委員会はさらに、被害者によって日本の裁判所に提起されたすべての損害賠償請求が棄却され、また、加害者に対する刑事捜査及び訴追を求めるすべての告訴告発が時効を理由に拒絶されたとの情報を考慮に入れる。委員会は、この状況は被害者の人権が今も引き続き侵害されていることを反映するとともに、過去の人権侵害の被害者としての彼女たちに入手可能な効果的な救済が欠如していることを反映していると考える(2条、7条、8条)。

締約国は、以下を確実にするため、即時かつ効果的な立法的及び行政的な措置をとるべきである。

i.戦時中、「慰安婦」に対して日本軍が犯した性奴隷あるいはその他の人権侵害に対するすべての訴えは、効果的かつ独立、公正に捜査され、加害者は訴追され、そして有罪判決が下れば処罰すること。

ii.被害者とその家族の司法へのアクセスおよび完全な被害回復

iii.入手可能なすべての証拠の開示

iv.教科書への十分な記述を含む、この問題に関する学生と公衆の教育

v.公式な謝罪を表明することおよび締約国の責任の公的認知

vi.被害者を侮辱あるいは事件を否定するすべての試みへの非難 〉

原文

14. The Committee is concerned by the State party's contradictory position that the "comfort women" were not "forcibly deported≫ by Japanese military during wartime but that the "recruitment, transportation and management≫ of these women in comfort stations was done in many cases generally against their will through coercion and intimidation by the military or entities acting on behalf of the military. The Committee considers that any such acts carried out against the will of the victims are sufficient to consider them as human rights violations involving the direct legal responsibility of the State party. The Committee is also concerned about re-victimization of the former comfort women by attacks on their reputations, including some by public officials and some that are encouraged by the State party's equivocal position. The Committee further takes into account, information that all claims for reparation brought by victims before Japanese courts have been dismissed, and all complaints to seek criminal investigation and prosecution against perpetrators have been rejected on the ground of the statute of limitations. The Committee considers tha
t this situation reflects ongoing violations of the victims' human rights, as well as a lack of effective remedies available to them as victims of past human rights violations (arts. 2, 7 and 8).

The State party should take immediate and effective legislative and administrative measures to ensure: (i) that all allegations of sexual slavery or other human rights violations perpetrated by Japanese military during wartime against the "comfort women", are effectively, independently and impartially investigated and that perpetrators are prosecuted and, if found guilty, punished; (ii) access to justice and full reparation to victims and their families; (iii) the disclosure of all evidence available; (iv) education of students and the general public about the issue, including adequate references in textbooks; (v) the expression of a public apology and official recognition of the responsibility of the State party; (vi) condemnation of any attempts to defame victims or to deny the events.


  以上を踏まえてお尋ねします。

 最終見解を読めば、慰安婦問題についての責任を打ち消そうとする日本政府の姿勢にこそ「矛盾」を感じ、「懸念」を表明したのだと理解できます。ところが、御紙の記事は〈「見解は慰安婦問題について、日本政府が「慰安婦の強制連行はなかった」と主張しながら、平成5年の河野洋平官房長官談話が、慰安婦募集には「甘言、強圧によるなど、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くある」としているのは、「立場に矛盾がある」と指摘した〉となっています。この表現では、「慰安婦」をめぐる人権侵害や日本政府の責任について、あたかも国連自由権規約委員会が疑問を呈したかのように誤解されるおそれがあるように思います。適切な表現だったのかどうか、御社のご見解をお聞かせください。また、国連自由権規約委員会の最終見解に、「懸念」(concern)を表明しているということが記載されているにもかかわらず、記事ではいっさい触れられていません。なぜ触れなかったですか。回答願います。

 いただいたご回答は『週刊金曜日』その他の媒体で発表予定の記事に、可能な限り反映させていただきます。来週月曜日中に頂戴できれば、週刊金曜日の記事に反映することが可能です。

 猛暑のおり、くれぐれもお体大切になさってください。

早々