訴  状

東京地方裁判所御中(平成25年行ウ184)
2013年4月8日

原告 三宅勝久
        
被告 杉並区長
   東京都杉並区阿佐ヶ谷南1ー15ー1

政務調査費返還請求事件


請求の趣旨

1 被告は杉並区議会議員安斎昭に対し、金員25万5000円ならびに、これにかかる2012年4月4日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払いよう請求せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
 との判決を求める。


請求の原因
1 当事者
(1)原告は杉並区の住民である。
(2)被告は杉並区の区長である。


2 請求の相手方
 安斉昭氏は杉並区議会議員の地位にある者である。


3 政務調査費の違法な支出
(1)政務調査費による支出の状況
 2012年4月4日、安斉昭議員は平成23年度(2011年度)杉並区政務調査費収支報告書を杉並区議会議長に提出した。安斉議員はその中で、2011年4月から2012年3月分事務所家賃の一部として4回にわたり計51万円を政務調査費より支出した。同収支報告書の記載ならびに添付領収書によれば、支出状況は次のとおりである。(甲1 6-19頁)

① 2011年4月13日 12万7500円(同年4月-6月分・按分1/2)
② 2011年7月13日 12万7500円(7月-9月分・按分1/2)
③ 2011年10月12日 12万7500円(10月-12月分・按分1/2)
④ 2012年1月13日 12万7500円(同年1月-3月分・按分1/2)

 ①+②+③+④=合計51万円


 しかし、これら①-④の4件の支出のうち、それぞれ6万3750円、合計25万5000円は法律条例規則等に基づかない違法・無効な支出であり、安斉議員は同額の不当利得を有している。当該不当利得の返還を請求する不当利得返還請求権を行使する義務が杉並区長にはある。


(2)使途基準ならびに安斎昭区議の支出根拠
 「杉並区議会の会派及び議員に対する政務調査費の交付に関する条例」および同施行規則、ならびに同規程によれば(甲1・100~107頁)、「事務所費」のうち事務所賃借料の支出については次のような定めになっている。

「事務所賃借料の支出割合の上限は1/2とする」(甲1・107頁)

 一方、安斉議員が杉並区議会議長に提出した政務調査費の請求にかかる提出資料によれば、杉並区西荻南2-18-19ウイング西荻南102所在の賃貸マンション(以下本件事務所という)について、貸主・S、借主・安斉昭の間で、賃料月額8万5000円(年間102万円)などの内容による賃貸借契約が結ばれている。(甲1・20-23頁)

 安斉議員はこの契約書を唯一の疎明資料として区議会に提出し、賃借料は年間102万円だとして、その1/2にあたる51万円を政務調査費で支出したものである。
 
(3)政治団体「安斎あきら後援会」の賃借について 
 ところが、本件事務所は、じつは第三者である政治団体「安斎あきら後援会」(代表者・安斉昭、主たる事務所は杉並区上井草4-16-8)が、本件事務所を年間51万円の賃料で賃借しているという事実が存在する。

「安斉あきら後援会」がが都選管に提出した政治資金収支報告書ならびに添付した領収書によれば、2011年12月31日付で事務所賃借代(2011年1月~12月)として51万円を「安斎昭」に支出している(甲1・35頁ならび41頁)。領収書の但し書きは「事務所賃借代(1月~12月分 政務調査費からの按分あり)」となっていることから、この「事務所」が西荻南所在の本件事務所を指すことは明らかである(甲1・50頁の②)。

 つまり、安斉昭氏が転貸しをする形で、「安斉あきら後援会」が本件事務所を賃借している事実がわかる。そして、この転貸しによる「安斉あきら後援会」の賃借という事実は、本件支出においてまったく考慮されていないのである。

 なお、2011年1月~3月については、「安斉あきら後援会」の24年分収支報告書が公開されていないために、同後援会から賃借料が支出されているかどうを確認することはできない。しかしながら、前年2010年の例をみれば(甲1 29頁)、同時期についても同様に支出がされていると推認される。

 また本件事務所の住所(西荻南2-18-19)は「安斉あきら後援会」が主たる事務所として届け出た住所(上井草4-16)と異なっているが、「従たる事務所」として政治団体が届出以外の場所に事務所を持つことはありえることであり、矛盾はない。本件事務所は「安斉あきら後援会」の従たる事務所にあたる。

 契約書類上では安斉昭=S間の契約であるが、実質的には安斉昭杉並区議と政治団体「安斎あきら後援会」という二者の借り手が存在する。そしてそれぞれ年間51万円の賃料を支払っているのである。

 以上のような事情であるから、政務調査費を請求する場合に安斉議員が申告すべき「賃借料」は、家主に支払っている賃料(年102万円)から「安斉あきら後援会」の支払い分(年間51万円)を控除した残りの51万円というのが正しい。

 この年間51万円の賃借料をもとに杉並区政務調査費における支出の上限額を計算すれば、51万円の1/2=25万2500円となる。すなわち、実際に支出した51万円との差額に相当する25万2500円は法律条例規則によらない違法・無効な支出であり、安斉昭議員の不当利得である。

 杉並区・安斉昭・安斉あきら後援会・S――の四者の関係を図示すれば以下のとおりである。
 



 また、正しい賃借料の上限額を図示すれば以下のとおりとなる。

①’2011年4月13日 6万3750円
   (2011年4月-6月分の賃料12万7500円に対する按分1/2)
②’2011年7月13日 6万3750円
(7月-9月分の賃料12万7500円に対する按分1/2)

③’2011年10月12日 6万3750円
(10月-12月分の賃料12万7500円に対する按分1/2)

④’2012年1月13日 6万3750円
(2012年1月-3月分の賃料12万7500円に対する按分1/2)

 ①’+②’+③’+④’=合計25万5000円

(3)転貸しではないという杉並区監査委員の認識について
 杉並区監査委員は、本件訴訟に先立つ住民監査請求の監査結果で、「後援会に転貸ししているような実態はないと解するのが自然である」などとして請求を棄却した(甲1・9頁)。しかし、「安斉あきら後援会」の政治資金収支報告書によれば、本件事務所の「事務所賃借代」51万円は「経常経費」として計上されている(甲1・35頁および41頁)。転貸し、すなわち賃借の事実がないのにこうした記載が出来るはずはない。杉並区監査委員の認識は誤っている。

 また同監査委員は、「安斉あきら後援会」政治資金収支報告書に「事務所賃借代」が記載されている理由について、「資金管理団体から同議員に政治資金として支出されたことを表すものと認めることが相当である」とも述べている。趣旨がやや不明確であるが、「政治資金として支出」とは、「政治資金規正法上の寄附として51万円の金員を支出をした」というだと思われる。そうだとすれば政治資金規正法違反にあたる。

 すなわち、同法21条の2はこう定めている。

(公職の候補者の政治活動に関する寄附の禁止)
第21条の2  何人も、公職の候補者の政治活動(選挙運動を除く。)に関して寄附(金銭等によるものに限るものとし、政治団体に対するものを除く。)をしてはならない。
2  前項の規定は、政党がする寄附については、適用しない。

 同法に明らかなとおり、公職の候補者(地方議会の議員を含む)への金銭による寄附は禁止されているのである。区監査委員の事実認定は、合法的にありえない行為をもって「安斉あきら後援会」の事務所賃料借支出を否定するものであり、著しく合理性を欠く。「安斉あきら後援会」が、年間賃料51万円で本件事務所を賃借していることは明白である。

(4)転貸しを適正に申告・処理した別の区議の例
 上にみてきたとおり、安斉昭議員は、政治団体「安斉あきら後援会」によって本件事務所が賃借されているという事実を申告・考慮しないまま政務調査費の違法な支出を行った。この行為がいかに不誠実であるかは杉並区議会議員・須黒奈緒議員の例と比べれば歴然としている。須黒議員は2011年度に、月3万円×10ヶ月=30万円を政務調査費に計上している(甲1・55-68頁)。その積算根拠は同議員が区議会議長に提出した資料から明らかである。議長提出資料は以下のとおりである。

1 大家=須黒奈緒の契約書(家賃・月額11万250円)
2 須黒奈緒→大家の支払いを示す振り込み明細(月額11万250円、甲1・69-78頁)
3 政治団体「みどり未来」から須黒議員への家賃支払いを示す領収書の写し(月額5万円、甲1・79頁)
4 事務所を「みどり未来」と「すぐろ議員」で使い分けていることを示す見取り図(甲1・80頁)

 ここから読み取れるのは、

あ)須黒議員の名前で契約した賃貸事務所は、「須黒奈緒」個人と政治団体「みどりの未来」(総務大臣届出・須黒奈緒代表)の二者で賃借されている。

い)須黒議員が実質的に負担している家賃は、月額11万250円-5万円=6万250円である。

――という2つの事実である。

 この賃借料6万250円を前提として1/2を按分すれば、支出可能な上限額は3万215円となる。須黒議員は、実際にはそれよりも低い月額3万円を計上しているのである。

 この点について杉並区監査委員の監査結果では、「本件事務所を後援会が安斉議員から賃借し使用している事実はないので、政治団体との間で事務所を区分し使用しているすぐろ議員のような場合と明らかに異なり、年間賃借料102万円から後援会から支出された51万円を控除した額を事務所費算定の前提とすべき理由はない」と述べられている(甲1・10頁)。

 しかしながら、安斉議員と須黒議員の間にいささかの違いはない。どちらも、議員個人で賃借した事務所を、同議員個人と政治団体の2者で賃借しているのである。監査委員は、「安斉あきら後援会」による本件事務所の使用実態がみられないことを理由に須黒議員の例とは異なるとの判断をしているが、「安斉あきら後援会」が帳簿上本件事務所の賃借料を支出していることは確かな事実であり、仮に使用実態がないとしても、それをもって賃借関係がないということはできない。

 また、「安斉あきら後援会」と「みどりの未来」の性格について、前者が資金管理団体に指定されているのに対して後者はその指定がないという違いがあるが、これは政治資金規正法上、資金管理団体には寄附の種類・金額に違いが設けられているに過ぎず、事務所の賃貸借関係をめぐる比較においてはなんら影響があるものではない。

 杉並区監査委員は、政治資金規正法の解釈について決定的かつ基本的な誤りを犯しており、結果として政治資金収支報告書に明白に記載された賃借の事実をもっても、「転貸し」ではないといった誤まった事実認定がなされたものである。

(5)悪意の受益者について
 安斉昭議員は2011年5月から1年間、杉並区監査委員を務めた。政務調査費の対象となる事務所賃借料が実際には年間51万円であることを熟知していたことは明らかである。そして102万円を根拠に1/2の按分をすれば違法性が生じることを十分に理解していたのである。違法性を認識した上で不当利得を得たのであり、民法704条に定める悪意の受益者にあたる。

4 監査請求前置について
 上記の違法な公金支出について、原告は2013年2月7日、地方自治法242条1項に基づく住民監査請求を杉並区監査委員に申し立てた。これに対して同監査委員は2013年4月2日付で請求を棄却し、同月5日、原告に通知した。この監査結果は違法であるので本訴訟を提起する。

証拠方法

甲1号証 2013年4月2日付杉並区監査結果

以上