社さんはなぜそんなことを私に頼むのだろうか・・・・
敦賀さんの部屋だったら・・・・
誰に声をかけても喜んで行くだろう


それなのになぜ私に声をかけたのだろうか?仕事柄部屋に入ることに慣れているからだろうか?
でも、敦賀さんは私が苦手なんだ、社さんが知らないはずはない。
苦手と言うのは聞こえが良いほうで、本当は嫌いなんだと思う・・


あの優しい笑顔は私以外の女性のためのもの・・
そこまで苦手なら、私以外の誰かが敦賀さんの部屋に行けばよいのにって、そう思って社さんにやんわりと断りを入れたのに・・


それなのに私はすでに敦賀さんの部屋の前に来て、今ドアの前でこんなことを考えている。


トントン


寝ていたら申し訳ないと思い、キョーコはドアを軽くノックして、そのまま耳を澄まして相手の様子を伺った。
部屋からは物音がきこえず、すでに寝ていると思いドアノブに手をかけて中に入ると、目の前には驚きの光景が広がっていた。
キョーコはすぐに蓮のそばに身をかがめるとその顔を覗き込んだ。

具合が悪そうに壁に寄りかかっている蓮は、今にも床に眠りそうなほど傾き、顔色は白に近いほど色がない。
どうすることもできず、キョーコは声をかけた。


「敦賀さん・・・・敦賀さん・・・大丈夫ですか?」


その声にこたえるように蓮が微かに瞳を開きニッコリと笑う。
今まで目にしたことのないほど神々しい笑みにキョーコの顔は引きつった。

「敦賀さん・・せめてベッドまで歩いてもらえませんか?・・私一人では敦賀さんをお部屋までお連れできません」
視線を合わせるようにして蓮に質問をしたが、その視線はどこか焦点が合っていなかった


「ごめん・・動けないんだ・・」


少し擦れた声が辛そうにそう応えると、キョーコはひどく困った顔をした。


「大丈夫・・少しだけ休ませて・・」
嬉しそうな蓮の顔とは対照的にキョーコは辛そうに蓮の瞳を見つめ返すと、うっすらと開いているその瞳を見て心臓がトクリと不思議な音を奏でた気がした。


微かに蓮の腕が動くのを見てキョーコはその手を掴むように手を伸ばすとヒンヤリとした蓮の手にそっと触れた。


「そばにいてくれないか・・・・最上さん・・君にいて欲しいんだ・・」


経験したことのない不思議な感覚が心の奥から湧きおこり、掴まれた手がドクドクと脈打つような気がした。


「・・・・・・・だ」


微かに聞こえたその言葉にこれ以上ないほどキョーコは瞳を見開いた。