彼が大切にしていた愛車シルフィーが3回目の車検を迎えました。
亡くなった後車検をとり1年おきに点検に出していたものです。
そして今回、手放すことに決めました。
7年前私達はこの車に出会いました。
彼の人生で1番高価な車です。
私は山之内一豊の妻が名馬を夫に贈った時と同じ気持ちでした。
彼はとても喜んで、私を助手席に乗せてどこにでも行きました。
その席は私だけの場所。
息子も座った事がありません。
病院のベッドの横で私は聞きました。
「あの車はどうする?」
「ずっと家に置いていて。」
「わかった。ゆきちゃんの言う通りにするわ。」
遺言ですからエンジンをかけたり、洗車をしたり、私ができる事はなんでもしました。
でも、もういいわね。
あなたも許してくれるでしょ。ディーラーは廃車を提案しましたが、卒業生の修理屋君が買いたい人を見つけてくれたのです。
シルフィーちゃんはお嫁に行きます。
頭の上に乗った雪は、私の綿帽子ではなくこの子の花嫁衣裳になりました。