1956年のアメリカ映画です。監督は、ウォルター・ラング。

 リチャード・ロジャース&オスカー・ハマースタイン2世の名コンビのブロードウェイ大ヒットミュージカルの映画化です。ブロードウェイで王様役を演じてスターダムに登ったユル・ブリンナーが映画でも王様を演じて、彼の永遠の当たり役を映画史にも記しました。この時のヒロインのアンナ役はブロードウェイの大スター、カートルード・ローレンス。映画では、アンナをデボラ・カーが演じています。

 19世紀半ば、シャム王の子供たちの家庭教師としてイギリスからやってきたアンナは専制的な王様と何かと対立します。しかし、国を近代国家の仲間入りさせたい王様の情熱には協力し、頑固な王様を少しずつ変えていくのでした。支配者意識、階級問題、女性差別など様々な問題を練りこんだ内容は、ミュージカルとは明るく楽しいものだった当時としては、異色だったのではないでしょうか。それでいて堅苦しくない。笑いを誘うシーンもいっぱいあります。

 この映画には、沢山の名曲が散りばめられていますが、やっぱり何と言っても『王様と私』と言えばこれ。「シャル・ウィ・ダンス」でしょう。初めて舞踏会に出た女性のとまどいから入り、やがて蝶のようにダンスに興じる様を歌い上げるこの歌は大変ドラマチックです。画面いっぱいにくるくる回り踊るユル・ブリンナーとデボラ・カーの姿がそこに重なり、思わず足がリズムを取ってしまいます。この歌は王様にダンスを教える歌でもあるのですよね。王様がアンナの腰に手を回してリードしようとしたとき、二人の間の王様と家庭教師の垣根が一瞬なくなり見つめ合う様子が胸を打ちます。

 奴隷の娘タプティム役で、リタ・モレノも出演しており、彼女の悲恋には涙せずにはいられません。

 ユル・ブリンナーは文句なしの王様ぶりで、頑固でちょっと粗野でアンナが時々顔をしかめるような無頼漢を大好演です。デボラ・カーもクラシックな衣装がよく似合って美しい。王様と対等に渡り合うシーンも彼女の品の良さと知性があればこそです。ちなみにデボラ・カーの歌は吹き替えで、歌っているのは影のミュージカル界の女王、マーニー・ニクソンです。

「シャル・ウィ・ダンス」は後半、ラストシーン近くになってからの登場です。ミュージカル史上に残るこの名シーンは是非御覧下さい。きっとあなたも踊り出したくなります。





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