「そして，ペルシャの王キュロスの第一年に，エレミヤの口から出たエホバの言葉が成し遂げられるため，エホバはペルシャの王キュロスの霊を奮い立たせられたので，彼はその全領域にあまねくお触れを出させ，また文書にしてこう言った。『ペルシャの王キュロスはこのように言う。「地のすべての王国を天の神エホバはわたしに賜わり，この方が，ユダにあるエルサレムにご自分のために家を建てることをわたしにゆだねられた。」』」（エズラ1：2）
聖書の記録によると、ペルシャの王キュロスの第一年に、「エホバは、キュロスの霊を奮い立たせられたので」、彼はその全領域にあまねくお触れを出しました。（エズラ1：1）そのお触れは、イスラエル人が故国に戻ってエルサレムにエホバの神殿を再建するようにというものでした。（エズラ1：2～4）どのようにエホバは、キュロスの霊を奮い立たせられたのでしょうか。キュロスは、聖書の預言の言葉に動かされたようです。
ダニエルが、キュロスに聖書の預言を指摘したものと思われます。ダニエルはバビロンの陥落以前にも，それ以後にも行政上の高い地位に就いていました。ダニエルは、バビロンが倒壊したその日の晩に、バビロンの倒壊を予告して、バビロンの第三の支配者となることを布告されました。また、ダニエルは、バビロンの陥落以後も、ペルシャのダリウスが王国の上に立てた三人の高臣のひとりであって、キュロスの王国でも栄えたことが記されています。（ダニエル 5：29； 6：1‐3，28）
古今の支配者たちは、側近の者たちから、自国の支配について助けになる報告を受けました。（ダニエル6：2）ですから、側近であったダニエルの言葉に、キュロスは敬意をもって耳を傾けていたことでしょう。ですから、キュロスの名さえ記されているイザヤの預言を含め、エホバの預言者が語った預言について、キュロスは、ダニエルから知らされていたのでしょう。
では、キュロスはダニエルからどんな聖書預言を指摘されたことが考えられるでしょうか。まず、ダニエルは、キュロスの名前が記されているイザヤの預言を指摘したことでしょう。聖書の中で、キュロスについては、その名がイザヤ44章28節と、45章1節の二回言及されています。
その聖句の前後で、エホバは、ご自分がまことの神であることを明らかにされ、キュロスを油そそがれた者と呼び、キュロスの前に諸国民を従えることを予告されました。（イザヤ45：1，5）また、エルサレムとユダの諸都市が建て直され人が住むようになること、神殿の基が据えられることを予告されました。（イザヤ44：26，28）また、キュロスは、エホバの牧者であり、エホバの喜ぶことをすべて完全に成し遂げるであろうことも予告されていました。（イザヤ44：28）ダニエルは、キュロスにこうしたイザヤの預言の言葉を読ませて、その意味を説明したことでしょう。
また、ダニエルは歴代第二36章と、エズラ1章に言及されているように、エレミヤの預言も指摘したことでしょう。エレミヤ25章には、エホバがバビロンの王ネブカドネザルを連れてこさせ、ユダの地と諸国民を攻めさせること、ユダの地が荒廃し、七十年間、ユダと諸国の民は、バビロンの王に仕えなければならないこと、七十年が満ちた時、バビロンの王とその民に言い開きを求めることが預言されていました。（エレミヤ25：9～12）
聖書は、メディア人のダリウスがカルデア人の王国の王とされた第一年に、ダニエルは、エルサレムの荒廃が満了するまでの年が七十年であることをエレミヤ書などから知ったと述べられています。（ダニエル9：1，2）メディア人ダリウスは、ペルシャ人キュロスの軍勢がバビロンを征服した後，カルデア人の王ベルシャザルの王国の後継者になりました。ですから、ダニエルは、ダリウスを通して、キュロスに近づいて、聖書研究の結果分かったことを、さっそく、キュロスに伝えたのでしょう。
バビロンによってエルサレムが陥落し、エルサレムが荒廃したのが、西暦前607年でした。それで、七十年のエルサレムの荒廃が終わらなければならない年は、西暦前537年でした。そして、メディア・ペルシャのキュロスによってバビロンが倒壊したのが、西暦前539年でした。ですから、キュロスは、タイミングとしてもその時に、ユダの民をバビロンから解放しなければならないことを理解することができました。
キュロスは、エホバの崇拝者ではありませんでしたが、それでも、エホバ神をまことの神と認めて、聖書の預言の言葉に動かされて、イスラエル人が、故国に帰還してエホバの神殿を建てるようにという命令を出しました。
箴言には、「王の心はエホバの手にある水の流れのようだ。ご自分の喜びとするところへどこへでもそれを向ける。」とあります。（箴言21：1）エホバは、政治支配者の心を動かして、ご自分のご意志を行なわせることもできることが分かります。