川崎トリスバー ①
何年かぶりで降り立った川崎駅の変わりように驚いてしまった。
川崎駅は小学校教員として歩み始めたとば口であり、社会という長い
旅路を踏み出した地でもある。
煤煙のなかでくすんだ街や人々であっても、ゆったりと時間の過ぎてい
く田舎暮らしに比べたら、なにもかも目を見張るほどの違いで、街は毎
日が縁日のようで、こころを浮き立たせてくれたものだ。
50年ほど前の川崎駅舎は、神奈川県ではじめての駅ビルではあった
が、工場地帯から吐き出されるばい煙を浴びてすすけていたし、うご
めく人々も全身にホコリをかぶったように薄汚れていた。
.................................................
それだけに親しみや温かみを漂わせていたものだが、いまは見知ら
ぬ近代都市の雑踏のなかに、いきなり放り込まれてしまったような戸
惑いを感じた。
こころのどこかに昔の川崎駅の風情や、甘酸っぱい想い出が明滅し
ていたのだろう。
その頃の川崎駅西口は朝夕こそ工業地帯に通う人達にあふれかえ
ったが、夜になると街路灯がヤケに目立つゴーストタウンのようだっ
た。
高度成長の熱気が去ったあとさまざまな工場が相継いで撤退し、駅
前とは思えない空地が広がっていたが、いまや首都圏有数の商業
施設となり昔日の面影はない。
そんななかどうしても訪ねてみたかったのが、教員時代の想い出を
預けた『川崎トリスバー』だった。
続