まず、伊藤氏の参考書の特徴は、英語を英語の順番で読むにはどのように考えたらいいかを土台にしていることです。
これはそれまでの参考書になかったもっと際だった特徴で、それ以前はおろか、それ以後もきちんと考慮しているものは一部の例外を除いて存在していません(ちなみに、この例外の1つが山口俊治氏の『コンプリート英語構文』という参考書ですが、残念ながら絶版になりました)。
薬袋氏の読解法は、伊藤氏の対極にあります。
薬袋氏の参考書では英語を分解し、それぞれの単語の品詞を決定し、疑問点をゼロにすることを目指しています。そこでは記号が多用され、学習法の準備として記号の付け方から学ばなければなりません。
伊藤氏の参考書も記号は多用されていますが、伊藤氏の場合は学校文法から逸脱したものはなく、あくまで文法用語を便宜的に記号化しているだけなので、単に慣ればいいだけです。
それに対して、薬袋氏の記号は完全にオリジナルなものです。ある品詞の単語が文の中でどういった役割をしているかまで厳密に記号化されています。学校文法の範囲を逸脱し、「薬袋方式」としか言いようのない記号群が使用されます。薬袋氏における記号は、記号として新たに習得しなければならないものです。
「英語を英語の順番で読む」といった考慮は全くなく、それ以前の品詞について徹底的に分析して考えるという態度をとっています。
これは昔からあった有力な学習法の1つで、「品詞分解」と呼ばれています。
伊藤氏における品詞は、英語を英語の順番で読むための手段です。品詞の知識を利用して、ネイティブスピーカーと同じ読み方をすることを目指します。いいかえると、伊藤氏の参考書では読むための文法はひととおりわかっていることを前提としています。
伊藤氏が君臨していたころの駿台予備学校は、クラスによっては「東大に入るより難しい」などと言われるほど、レベルが高かったそうです。私が知るだけでも、鳩山元首相や田中康夫議員や作家の橋本治さんなど、そうそうたる人材を輩出しています。
だから、彼らがもともと持っている文法知識を再編することで、かなり短期間で英語が読めるようになりました。もともと学力も知識欲が高い生徒が集まっていたので、伊藤氏の求める水準にほとんどの生徒が応じることができたようです。
ところが、文法軽視の風潮が強まり、大学進学率が高まると、文法力がかつてより弱体化し、さらには生徒の平均学力が低下します。すると、伊藤氏のやり方ではついていけなく生徒も出始めます。そういった生徒は薬袋氏のやり方に魅力を感じ始めるようになります。
続きます。
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