悲しい話 | カンコクとバンコク

悲しい話

エカマイでタクシーに乗った。

運転手が、私は運がいいと言う。

なんでかと聞いたら、私が最後の乗客だからだと。


自分は9年間、タクシーの運転手をやってきたんだけど、
今日が最後。

というのも、政府の新しい法令で、
タクシーを借りている運転手は、
タクシーの所有者に事前に保険金の2000バーツを
支払うわなければならなくなった。

でも、その2000バーツが、
支払えない。

サラブリ(東北の都市)まで行って、
知り合いにお金を借りようとしたけれど、
無理だった。

・・・という話だった。


2000バーツのお金がないの?と聞くと、
自分には、双子の子供がいて、
その子供を育てるのに、お金がかかる。

さらに、奥さんは、首に障害があって、
仕事もできない。


ふぅん・・・

そんなこと言いながら、どうせ、
お金ができたら、贅沢に使ってきたから
預金が一銭もないんだろう、
宵越しの金を持たないのがタイ人だから・・・

なんて、思う一方、

タンブン(徳を積む)のつもりで、
2000バーツ貸してみようか。
返ってくるわけないけれど、
もしも、返ってきたとしたら、
これまで、散々タイ人に貸して返ってこなかったお金が
一度に全部返ってきたぐらいの喜びがあるかもしれない。

最後の最後に、
もう一度だけ、賭けだと思って・・・

ちょっとお酒がはいっていたのも手伝って、
そんな気持ちになってしまい、
財布の中身をみてみたら、
ちょうどご飯食べたあとで、
財布に1000バーツすら入ってなかったんだよ。

「ごめんね。貸してあげようかと思ったけど、
2000バーツなかったよ。」

「いいんです、そんなこと。
貸してもらおうと思って、こんな話したわけじゃないですから。」


タクシーがトンローに着く前に、
車がプシュプシュなりだした。

「あ~~~。本当にすみません。
ガソリンがなくて、エンストしそうなんです。
さっき、サラブリまで行ってきて、
ガソリン使い果たしたけれど、
お金がなくて、給油もできなかったんです。

この横のソイに入って、
車を止めますので、
申し訳ないけれど、後ろから来るタクシーに
乗ってもらえませんか。

ここまでのお金はもちろん要りませんので。」

メーターをみたら、43バーツだった。

車が停まったので、
100バーツをおいて、
車を降りた。

「あ・・・・いいんです。ほんとに・・・
ほんとに・・・すみません。ありがとう・・・」

そんな運転手の声を後ろに聞きながら、
後続のタクシーを拾おうと、
流れてくる車の群れに眼をやった。

でも、あの停まっちゃったタクシー、
これからどうするのかなって、
ちょっと気になって、
もう一度、振り返ってみると・・・

エンストしたはずなのに、
えらい勢いで、走り去っていった。




・・・・




一体、いつになったらタイ人に騙されなくなるんだろう、私。

笑えるね。