ザ・サークル 選ばれし者たち / マッツ・ストランドベリ&サラ・B・エルフグリエン / 久山葉子訳 / イーストプレス

スウェーデンの田舎町エンゲルスフォシュに住む6人の女子高生は、学校で起こったある生徒の怪死事件と前後して、不思議な力に目覚めます。
姿を消せたり、ものに火をつけられたり、他人を意のままに操れたり。突然芽生えた力に戸惑う中、彼女たちはある赤い月の夜に1か所に集められ、自らを「導者」だという謎めいた男性ニコラウスから、自分たちが魔法の力を持つ「選ばれし者」だと知らされます。
彼女たちはこれから起こるという邪悪との大いなる戦いのためにこの地に現れたらしいのですが、そんな6人の存在を知って命を狙っている者が町の中にいるようで…


スウェーデンでベストセラーになってるYAダークファンタジー3部作の1作目。
スウェーデン産のこの路線のYAが日本に入ってくるのはたぶんはじめてですね。

「選ばれし者」とか「邪悪との戦い」とかどっかで聞いたようなハデ系なあらすじを見て、もしかしたら悪い意味でハリウッド映画っぽい大味な作品かもなあと思いながら読みはじめたんだけど、これが良い意味でアメリカナイズされてなくて、また良い意味で映像的で読みやすく、予想以上にいいです。


何がいいかというと、ファンタジーであるのと同じくらいの比重で、さびれた田舎町に住む6人のヒロインの青春物語でもあるのがいい。
この青春物語部分の描写が、あまりロマンチックじゃなくてリアルな現実社会の暗さを持ってて、地に足がついてるんですよね。ヒロイン全員にリアルな存在感があるから、物語世界に読者を引き込む力が強い。
舞台となってる閉塞した田舎町や、ヒロインたちをとりまくあまり幸せでない大人たちの描写もうまいです。


いっぽうファンタジー部分に関しては逆にもうちょっと描写が濃いといいなと思うのですが(設定があまり詳しく説明されないままどんどん話が進むので)、今のところ6人のヒロインも偉そうな「評議会」とやらもニコラウスさんもみんな完全に状況を掌握できてない感じで全部を説明できる人がいないっぽいので、現状ではしょうがないのかな。謎になってるところは2巻目以降でしっかり説明してもらえることを期待します。

とはいえ、誰が敵かわからないというちょっとサスペンスミステリっぽい展開はスリリングで面白いし、また使える魔法が各自限られてて、あんまり派手な魔法バトルになっていかないところも好みでした。


6人のヒロインは揃いもそろって「明るいいい子」ではちっともなく、友達がいない優等生ミヌー、母親とうまくいかずにダメんずな彼氏に逃げてるヴァネッサ、ひとり暮らしのゴス娘リニーア、肥満のいじめられっ子アンナ・カーリン、性格最悪ないじめっ子のイーダ、摂食障害歴ありのレベッカ、とそれぞれ悩みや問題や欠点を抱えています。
しかももともと学校内で属していた階層がバラバラで接点がなかったためお互いあまり仲も良くなくて、6人チームで戦わないといけない(らしい)というのに、協力したり単独行動したり嘘ついたりけんかしたりでなかなか一枚岩になれません。

全員イヤなところを色々持ってる(ティーンの女子ならそれが普通ですが)ため、最初のほうは好きになれない子が多くて困るんですが、それぞれの背景や悩みが細やかに描かれるのを追っていくうちに、いつの間にかみんなに感情移入させられてしまいます。最終的にアンナ・カーリンをこんなに好きになれると思わなかったな。
ひとりだけ内面が描かれなかったいじめっ子のイーダだけがちょっとまだわからないキャラクターですが、それでも、読み終わる頃には彼女のことも嫌いになれなくなっていました。


また、「恋愛」はいくつも描かれるものの、「ロマンス」がメインになることはなく、話の中心が「私と彼」ではなくあくまで「それぞれのヒロイン自身」なのもいいところ。恋愛は彼女たちが抱えるたくさんの問題のうちのひとつという程度の位置づけです。んで幸せに終わりそうな恋愛をしてる子が誰もいないっていうね(笑)。

というわけで、アメリカ産YAのようなヒロインの心を奪うイケメンヒーローキャラはこの作品は装備してないんだけど(いや、見た目がイケメンなのは何人か出てくるけど、どいつもこいつも結構アレで…)、そのかわり、おごそかないにしえの賢者っぽい言葉づかいと人格なのに、見た目はダサい服装の用務員のおじさんでしかも記憶喪失になっちゃってて信じられないほど頼りない導者のニコラウスさんが私的に萌えキャラで、かわいくてたまりません。おまえ、なんて役に立たないんだ…と呆れながら見てるうちになんか庇護欲そそられて好きになってしまった。記憶喪失のせいで頼りないけど人間的には優しくて高潔な人格者だしね。彼2巻目以降は活躍するのだろうか…



続きがとても気になるのですが、調べたらイーストプレスが2巻目までは日本版の権利持ってるみたいなんだけど、↓
http://grandagency.se/authors/b_elfgren_strandberg/fire.htm
http://grandagency.se/authors/b_elfgren_strandberg/the_key.htm

これって最後まで出してもらえるの?どうなの?
続き訳されなかったら2、3作目は英訳版を読もうと覚悟決めたくらいには面白かったです。




※追記 続きの邦訳が出るかどうかは1巻目の売れ行き次第とのことです。みなさん読んでください!

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残り2冊英訳版。

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