認知症=アルツハイマーと考える医師が多い理由 | 老年科医の独り言

老年科医の独り言

認知症治療にかかわって30年目になります。
今回心機一転、題名を変更して、ぼつぼつ書いていきたいと思います。

最近認知症の定義について見直していたら、とんでもないことが判った。



 



認知症は医学的には、



「一度獲得した知的機能の低下により、日常生活・社会生活が困難になった状態」



をさす。



この考えで、アリセプトが海外で発売される頃、アメリカの診断基準に基づいた基準が導入されてきた。その時、「老年型認知症はほとんどがアルツハイマーで、今までの老年型認知症(当時は認知症と言っていたが)は、アルツハイマー型認知症と言うべきだ。」と言う主張が新たに認知症研究にかかわってきた医師たちが主張し始めた。その多くは神経内科医で、アルツハイマーの発生原因の研究が主体だったと思う。



その当時アルツハイマー病(いまの若年性アルツハイマー)だけは足りないから、みんなアルツハイマーにしたかったのでは?と私は思った。いまから、20年ほど前のことである。



 



当時からその主張の根拠とその無謀さを感じていたが、その理由が最近良く判った。



 



アメリカでは、精神疾患煮について学会で、疾患概念と診断基準の統一を図るため、DCMというガイドラインが作成された。日本に導入されて、10年強となっているが、現在はDCM-Ⅳが用いられている。



 



そのDCM-Ⅳの認知症の診断基準は、



・多彩な認知欠損。記憶障害以外に、失語、失行、失認、遂行機能障害のうちの一つ以上。



   
認知欠損は、その各々が社会的または職業的機能の著しい障害を引き起こし、病前の機能水準から著しく低下している。



認知欠損はせん妄の経過中にのみ現れるものではない



   
痴呆症状が、原因である一般身体疾患の直接的な結果であるという証拠が必要。



と成っている。



 



ではアルツハイマー型認知症の診断基準はどうなっているかと言うと、



A.多彩な認知障害の発現。 以下の2項目がある。

1
)記憶障害(新しい情報を学習したり、以前に学習していた情報を想起する能力の障害)

2
)次の認知機能の障害が1つ以上ある:

a
.失語(言語の障害)

b
.失行(運動機能は障害されていないのに,運動行為が障害される)

c
.失認(感覚機能が障害されていないのに、対象を認識または同定できない)

d
.実行機能(計画を立てる、組織化する、順序立てる、抽象化する)の障害





B.上記の認知障害は、その各々が、社会的または職業的機能の著しい障害を引き起こし、また、病前の機能水準からの著しい低下を示す。

C
.経過は、ゆるやかな発症と持続的な認知の低下により特徴づけられる

D
.上記Aに示した認知機能の障害は以下のいずれによるものでもない

1
)記憶と認知に進行性の障害を引き起こす他の中枢神経疾患(例:脳血管障害、Parkinson病、Huntington病、硬膜下血腫、正常圧水頭症、脳腫瘍)

2
)痴呆を引き起こすことが知られている全身性疾患(例:甲状腺機能低下症、ビタミンBl2欠乏症,葉酸欠乏症、ニコチン酸欠乏症、高Ca血症、神経梅毒、HIV感染症)

3
)外因性物質による痴呆

E
.上記の障害は、意識障害(せん妄)の期間中だけに出現するものではない

F
.障害は他の主要精神疾患(例:うつ病、精神分裂病など)ではうまく説明されない。



 



と成っている。



前半のAの項目は、認知症の診断基準の



   
多彩な認知欠損。記憶障害以外に、失語、失行、失認、遂行機能障害のうちの一つ以上。



とほぼ同じ事を指している。



 



B以下は、その原因が既知の疾患によるものではないことを確認するための項目である。



言い換えると、他の原因を認めなければ、すべて認知症はアルツハイマーになってしまうのである。



 



 



DCMの診断基準はアメリカで作成されたものである。アメリカでは、大部分がアルツハイマーであることは確かな様である。全体の80%以上がアルツハイマーといわれており、認知症=アルツハイマーとなった診断基準もある程度理解できる。特に白人女性はほぼ100%アルツハイマーだと聞いている。



 



この考えを無条件で導入した厚労省や学会の重鎮の怠慢といわざるを得ないであろう。



 



最近アメリカでもレビー小体型認知症が見つかるようになり、前期の認知症の診断基準が適切でないと言う意見が増え、認知症の診断基準に短期記憶障害が必須ではなくなると聞いている。



レビーの一部やピック病は、かなり進行しないと短期記憶障害は起こらないため、DCMの診断基準に当てはまらない。



このような異常な事態に終止符が打たれようとしている。



しかしまだこの診断基準に固執し、認知症=アルツハイマーと言う困った考えに凝り固まった、認知症専門家は非常に多いのが現状だと思う。



この認知症の診断基準を日本に導入し、認知症の多くはアルツハイマーだと主張した医師の罪は重い。



 



日本では、昔からレビーやピックもかなりいた。



 



私が認知症にかかわって25年ほどたつ。認知症に携わり始めすぐ感じた二つの疑問がある。



ひとつは、



認知症の方にパーキンソン症状(脳の変性による進行性のタイプ)を持つ方が異常に多いこと。



二つ目は、脳幹部の微小脳梗塞と考えられる発作が非常に多いこと



である。



一つ目は、レビー小体型認知症が多かったためである。この時のことを、神経内科医の権威の二人に聞いたことがあるが、まともな回答をもらえなかった事を強く記憶している。



二つ目は、最近の脳梗塞の治療から、脳は一時的な虚血になると機能障害を起こすが、短時間で血流が戻れば機能の改善が起こるということが判ってきた。



脳幹部の血管走行は無理があり、動脈硬化が強い方で血流の乱れがあると、一時的に脳幹部の血流が途絶えることが考えられる。このため脳幹部の脳梗塞?と考えざるを得ない発作が起こった可能性が高い。前頭葉も同じような血管走行が見られるので、一時的に血流低下で種々の症状が出る可能背がある。



当時は、機能消失するほど血流が途絶えると神経細胞は回復しないと言われていたのである。



 



この診断基準を積極的に指示し広めて言ったのは、神経内科医の集団だったと思う。



次回神経内科医について考察してみたい。