ストロングスタイルでロックの王道を駆け抜けるCARNATION(カーネーション) | Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

Jポップスの黄金時代は80年代から始まった。

そんな時代を活写した幻の音楽雑誌『MUSIC STEADY』をネットで再現します。

2021年もあと数時間で終わる。今年の振り返りではないけど、とりわけ印象に残るライブがあった。このコロナ禍ということもあるが、見た数は少なく、それも配信がほとんど。最前線で活躍され、膨大な数のライブ(勿論、昨年、今年に限って言えば、誰に限らず、膨大の数は減少しているはず)を見ている方の選択肢と比べるもないが、仮に100本以上見ていてもそのライブは選ばれるだろう。

 

ライブ直後に簡単に呟いただけで、ちゃんと、リポートをしていなかった。来年に持ち越したくないので、いま書いておく。しかし、年末の大掃除があるし、年越し蕎麦も茹でなければならない。それにドミューンやら紅白やら“New Year Rock Festival”やらもある。年を越し、松が明ける頃になってしまうかもしれないが、そんな時はどうか大きな心で笑って許してもらいたい。

 

そのライブとは、この12月12日(日)に東京「日本橋三井ホール」で開催されたCARNATION(カーネーション)の「"TurntableOverture" Release Tour 2021」の最終公演である。同ツアーは東京公演に先駆け、11月20日(土)に名古屋「TOKUZOU」、11月21日(日)に大阪「umeda TRAD」で行われている。

 

直前に直枝政広と太田譲が新型コロナウイルスに感染(直枝は9月7日に感染、同月22日に回復。大田は9月8日に感染、同月22日に回復している)したため、直近のライブが延期、新作『TurntableOvertur』(通算18枚目のアルバム。前作『Suburban Baroque』から4年ぶりになる)のレコーディングが中断するなど、同ツアーの開催も危ぶまれたが、無事に回復、予定通り開催された。

 

カーネーションのライブを見るのは2018年6月30日に日比谷野外大音楽堂で開催された結成35周年記念コンサート「SUNSET MONSTERS」以来。ケラリーノ・サンドロヴィッチや鈴木慶一や鈴木博文、白井良明、曽我部恵一、堂島孝平、山本精一、森高千里、岡村靖幸……など、カーネーションに所縁のあるアーティストが多数、ゲスト出演している。豪華絢爛で目も眩みそうになったが、そんな中でも彼らはぶれることなく、確固たる自らの音楽を何食わぬ顔で貫き通す。会場を見回すと、ゲスト出演したミュージシャンだけでなく、客席にもたくさんのミュージシャンがいた。まだ、普通に歓声を上げたり、立ち上がったり、歌ったりが出来た時代、観客との和やかなやり取りや会場を包む温かい雰囲気が心に残る。古の“野音”のフェスやカーニバルを懐かしく思い出す。

 

あれから随分と時間が経ってしまった。その間、2018年10月に新宿「ネイキッドロフト」で開催された『電子音楽 in JAPAN』の著者・田中雄二のトーク・イベント「増刷記念!『エレベーター・ミュージック・イン・ジャパン』講義スペシャル」にゲスト出演した直枝を見ている。毒や皮肉を含みながらも機智や諧謔に富んだやりとりが印象的だった。

 

ツアー直前、2021年11月17日にリリースされた新作『Turntable Overture』はライブの予習のため、繰り返し、聞いた。聞く度に底なし沼のような彼らの世界に引き込まれる。それを生で体感できる。今回は配信ではなく、リアルライブだ。

 

直枝政広(Vo、G)と大田譲(B、Vo)を支えるのは張替智広(Dr)、松江潤(G)、伊藤隆博(Kb)という強者揃い。東京公演はゲストに重住ひろこ(Cho)、INOhidefumi(Kb)が加わる。

 

セットリストは彼らのインスタなどで公開されているので、参照してもらいたいが、やはり目を引くのは『Turntable Overture』の全曲披露だろう。オールタイムヒッツ的なものではなく、敢えての最新作での“一点突破”。勿論、「夜の煙突」や「からまわる世界」、「New Morning」など、お馴染みの曲も披露するものの、その日、演奏した19曲のうち、11曲が新作からだ。自信の表れか。“Turntable”と“Overture”というアナログ盤のB面の始まりを想起させる同作。あと数年で芸歴40年になろうというバンドに失礼かもしれないが、折り返し地点、新たな出発のように感じる。それゆえの想像を絶する疾走感。並みのストリートロックやスワンプロックが束になっても敵わない。ロックの王道を歩んでいくというか、脱兎の如く駆け抜けるのだ。

 

出自はケラのナゴムや鈴木博文のメトロトロンなど、一癖も二癖もある曲者、一筋縄ではいかない捻くれ者に揉まれ、そこから飛び出してきた。そして気づけば40年に近い。その間、数多の理論や技術、手法などを体得してきた。いまではストロングスタイルのロックも自由自在に操る。そんな音の奥底にひねくれやねじれを見つけると嬉しくなるのだ。「SUPER RIDE」の“てっぺん宙返りの仰天くるくるボーイ”や「Highland Lowland」の“新しい仕事を見つけるために来たのに町にはなにもないじゃないか”、“上の方から見たらここはただの穴”、「マーキュロクロムと卵の泡」の“穴の空いた明日”……など、はちみつぱいやムーンライダーズなどのロック無頼派(!?)と通底するものがある。

 

ハードでヘヴィーなサウンドに身体が一気に持っていかれるが、心の奥底にはずしりと重たいものが錨のように沈んでいく。会場は総立ち状態で観客は乗りながらもカーネーションの歌を噛みしめている。そんな関係性を築けるのがカーネーションではないだろうか。ステージを見ているオーディエンスを観察すると言うのもいかがなものかと思うが、その光景は堪らなく愛おしいものに見える。ファッションやポーズで聞いているのではなく、彼らのことが本当に好きで堪らない、それが伝わる。カーネーションとの邂逅を心から楽しんでいるかのようだ。

 

この日、不思議なことに久しぶりにお会いする方がたくさんいた。私も信頼するライターや編集者、ディレクター、ミュージシャンなどが勢揃いしていたのだ。やはり、彼らもカーネーションのライブを心待ちにしていたのだろう。このコロナ禍のため、外出を控えていても彼らのライブだけは“見にいかなくちゃ”だ。観客だけでなく、メディアも虜にしていると言っていいだろう。

 

改めて、彼らを見つけたくれたケラや鈴木博文に感謝だ。彼らがいなければ、カーネーションとの出会いはもう少し遅くなっていただろう。もしかしたら、彼らの40年近い、長いドラマは違うストーリーになっていたかもしれない。

 

 

そういえば、ライブ中に大田が直枝のことをレオナルド熊に似ていると言っていた。顔ではなく、声のことだと思うが、会場にいた方で、レオナルド熊のことを知っているものがどれだけいるか、中高年だけでなく、若年層のファンもいるので少し心配になった。レオナルド熊は既に故人だが、現在も役者として活躍する石倉三郎と組んだ「コント・レオナルド」で一世を風靡したコメディアンである(コント・レオナルドは人気絶頂期にコンビ不仲が原因で解散。熊は劇団を立ち上げるとともに個性派俳優として活躍)。社会を風刺したダークなコメディが売りだった。どこか、カーネーションに通じる――と言ったら、こじつけになるので、敢えて言わないが、“浅草キッズ”、“深見チルドレン”(?)の私としては名前が出ただけでも嬉しかった。

 

 

ここにきて、延期になったライブの新たな日程が決まりつつある。2022年も予断を許さないが、この困難な状況をストロングスタイルで乗り切って欲しいもの。

 

ちなみに新作『Turntable Overture』の初回限定盤は新作CD、新作のインストCD、渋谷クアトロのライブDVDという3枚組(前作『Suburban Baroque』は新作CDと新作のインストCDの2枚組だった)。仕様もストロングスタイルである。無くならないうちにお買い求めをお勧めする。

 

 

というところで、書いていたら、紅白は終わり、『ゆく年くる年』が始まった。もうすぐ“New Year Rock Festival”はカウントダウンだ。2022年まであと数分になってしまった。とりあえず、年内に上げておく。乱筆乱文、失礼。直しはお雑煮を食べてからじっくりやるつもり。2022年も“よろしく!”。