城に登る:2
やさしい人に出会うと、触れ合ったこちらもやさしい気分になれるもので、思わぬ茶屋でのやりとりで私の足取りも浮き足立ったものとなった。すっかりおのぼりさん気分だ。
しかしいくら心が弾もうが、実際に山道と向き合うのは私の体。
城というものは各々の時代背景を機に平城と山城に分かれるが、私の実家のものは明らかに後者。
野球ボールを落とせば確実に転がり落ちていくだろうの坂道。
普段の運動不足が祟って、坂道がキツイ。
キツイ坂道、坂道キツイ。
そればかりか、二手に分かれた道のりで看板があったにも関わらず、間違った道の方に進んでしまい、行けども行けども傍に高らかな石垣が続くばかりで、しまいには行き止まりといった遠回りまでしてしまい本当にくたびれた。
敵に攻めれこまれても優勢でいられるように山城というものはあるが、これで鎧でも着ていたらどんなにしんどいものか。そういった点ではバッチシ合格点だ。
まさかその城が後世に観光地化するだろうとは、殿も思い描けなかった未来予想図だったころだろう。
それからいくつかの門をくぐり、やっと開けた中庭に出られた。
着いたら着いたでもちろん厠チェック。
その結果は、「厠(かわや)イヤミ百景」の「殿のトイレ」 で。
山城の中腹だけあって市内が一望出来る。
50万人都市とは思えない小ささと、地域色的に時の流れがゆっくりなのもあってあまり当時と景色は変わらない。
それでも小さいときは、市内なら逆にどこからでも山の上のこの城が眺めることが出来ると聞いたが、今ではビルも増えていてどこからでも見えるといったわけにはいかなくなった。
麓の方では移転のため取り壊し中の球場の様子が見える。その近くにはガンセンター。
この街はつらい思い出が多すぎる。
たまに実家に帰ることがあっても二度と定住地として住み着くことはないだろう。
キライではなない。郷土愛もないこともない。
でも住んでも西の京か東の京だ。
大阪・京都にも数年住んでみて、関西というのがどういったものか分かった。
今は東京を模索中といった感じか。
人生はいつでもリセット出来る。
うだうだぬかさないことだ。
レッツ!オンド・アゲイン!
さて、お城と言えば天守閣だけど・・・。
お城ないの。
お城がないの。
改装中で天守閣の姿が見えず仕舞い。
参ったね。
ほてほてと中庭で時間と費やそうにも特にすることもなく、再び来た道を戻ることにした。
行きが登り坂なら帰りは下りというのが世の常。
既に知った道というのは時間の感覚の経過を早める。
行きはあんなに時間がかかったのに、帰りは早いというのはそのためだ。
あっという間に先ほどの茶屋に行けば、小型犬がじーっと凝視でお出迎え。
既に顔パスの顔を覗かせれば、「お帰りなさい!」の声が。
・・・ここで所帯を持つのも悪くない。
峠の茶屋の若だんなとして、毎日観光客相手にソフトクリーム作り。そして小型犬と城を散歩。
さっきまでこの街には住めないとか言ってなかったか?
ここで「やっぱり、寒いんでいらないです。」と言うわけもなく、ソフトクリームを頼むと、「サービスです。」と、こんもりもこもこと、ここの山の象徴のような量の盛り盛りソフトクリームを作ってくれた。
そりゃ時間はもう夕方五時前だもの、もう私以外にソフトクリームを頼む客も皆無。私だけのために動かしたマシンのかいもあって、愛恨の一発のソフトクリームの出来上がり。ハーゲンダッツにはないサービスだ。
我が身のためにわざわざマシンを稼動してくれた礼を言いつつ、リフト乗り場へと足を運ぶ。
ただでさえ寒い夕暮れ時に、これまた標高も手伝って寒い山の上で、ソフトクリームを食べてる兄ちゃんのおでましだ。
既にリフト乗り場の人たちは、もう乗る人もいないだろうと掃除をしていたのに急に表れたMr.おのぼりさん。それでも彼らは私を温かく迎え入れてくれてリフトにおそるおそるライドオン。
かわいそうな人がいると思ったことだろう。
リフトは踊ることを止めると死んでしまう紅い靴をはいてしまった女の子のように動きを止めることなく、その往復を動きを繰り返している。先ほど登りの際にすれ違った娘さんたちは温泉に浸かっているころだろうか?
北風に吹かれながら揺れるリフトの上で食べるソフトクリーム。
正直寒くて味がよく分からなかった。
なんだったんだ。
なすがまま流れるままにこの身を任せていると、向かってくる上がりのリフトに何かが乗っているのが遠くに見えた。
人間じゃない何かが乗っている。
急いでカメラを取り出しパチリとな。
水のつまったペットボトル三本だけが登っていくところだった。
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