左後肢端の甲の部分に急速増大するしこりに気づき動物病院にて切除手術を行いました。
術後の病理検査の結果は線維肉腫。切除マージンまで腫瘍細胞は達していましたが、これ以上の切除不能であると告げられました。オーナーは治療の選択肢を求めて来院されました。
術後1週の初診時、術創の一部に癒合不全が認められましたが元気、食欲は良好で、明らかな再発・転移所見は認められません。
しかし、このままおけば局所再発する可能性は極めて高く、進行すれば脚を使えなくなるだけではなく、遠隔転移も起こし命にかかわってくることが予想されます。
そこで今後の治療の選択肢とその利点・欠点を提示いたしました。
①断脚手術
利点:一回の治療で局所の腫瘍を根治させる可能性が最も高い。
欠点:体重の重い大型犬では機能障害により生活の質が落ちる可能性がある。
②放射線療法
利点:治療による器質的な変化なく、局所の腫瘍を効果的に抑えることができる。
欠点:複数回の全身麻酔が必要。放射線障害のリスク。
③化学療法
利点:全身療法なので遠隔転移を予防する効果あり。
欠点:局所再発を抑える効果は弱い。
④以上各治療の組み合わせ
オーナーは断脚手術をしない範囲でなるべく元気に長生きしてほしいとの希望から、②放射線療法と③化学療法の組み合わせを選択されました。
放射線治療は麻布大学附属動物病院で高エネルギーX線照射を週1回、合計4回行いました。
4回の放射線治療終了後、術創は癒合していますが、照射部位皮膚の軽度腫脹と発赤が認められます。
一般状態は良好で初回の化学療法を実施しました。
遠方から来院されるため、抗がん剤は重度の副作用が出ない範囲でカルボプラチンを使用しました。
腫瘍の抑制効果と消炎効果を兼ねて3日に一度のピロキシカムの投与も併用しました。
放射線治療終了1ヶ月後、照射部位の脱毛は認められますが、皮膚の発赤は消失し痒みや痛みも認められません。
放射線治療終了3ヶ月現在、局所の発毛が認められ、再発・転移所見もありません。
現在も3-4週に一度の、カルボプラチンによる化学療法とピロキシカムを継続しています。