Indemnification Clause の勘所その2~rightful claim(1) | 日々、リーガルプラクティス。

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現在、上場企業で法務を担当、
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CAL Bar Exam合格を目指しています。

先日、FCSL通学中の人たちやBar対策講座受講中の方たち10名ほどで飲み会をしてきました。初めてお会いした方々もいたのですが、同じ方向を向いて頑張っている人たちなので、本当に色々と刺激になりました。この前の2月にBar Examを受験してきた方たちもいて、そのあたりの話は後日書こうと思っています。

以前の投稿にて、テスト明けに"indemnificationのデフォルトルールのようなもの"について触れる、とお伝えしましたので、今日は第三者による知的財産権の侵害クレームに対するIndemnificationのデフォルトルールについて取り上げます。

そもそもIndemnificationに関する広い意味でのデフォルトルールは、通常の損害賠償ではありますが、英米法の通常の損害賠償に関するルールをここで展開するのは、あまりに長く、上手にまとめるのも至難の技なので、上記"Indemnification against IP claim"について考察してみることにしました。

なお、通常の損害賠償のルールについて意外と勘違いしやすいのは、少なくともアメリカ法においては、"consequential damages"や"Incidental Damages"について、デフォルトルールとしてあらゆる損害を契約違反当事者は賠償することになっていて("any other loss, including incidental or consequential loss, caused by the breach" Restatement (Second) of Contracts § 347)、それを、Foreseeability、Certainty、Avoidability(Mitigationとの関係)といった要素から賠償範囲を限定するようになっている、ということです。ですので、契約書のレビューにおいて、"any and all incidental and consequential damages"との文言がある際、"any and all"だけを削除しても、意味をなさない可能性が高い、ということです。これだけは広い意味でのデフォルトルールに関連して触れておきます。


第三者の知的財産権の侵害事案における売主・ライセンサーの責任に関するデフォルトルール


仮にIP Infringementに関するIndemnification Clauseが契約書に含まれておらず、第三者の知的財産権を侵害しないことを約束するような条項もない契約においても、契約当事者の買主やライセンシーが、第三者から「売主から購入した製品やライセンサーから付与されたライセンス対象について特許件等の侵害をしている」との警告を受けたり裁判を起こされた場合、買主/ライセンシーは売主/ライセンサーに対し、生じた損害の補償を要求をすることは可能なのでしょうか。(Defenseについては要求することができない点は、以前の投稿で触れました。)

これについては、私が認識している限りでは、Sales of goodsの場合かそうでないか、によって結論が分かれてくると理解しています。

まず、Common Lawの大原則は、売主が保証した範囲を除き、買主が危険を負担するべし、というCaveat Emptor("let buyer be aware")です。多分これは、Hadley v. Baxendaleによって確立された、契約時にUnforeseeableである損害については、契約違反当事者といえどもその責任を負わない、というルールと同じRationale(論理的根拠)に拠っているのではないかと思います。この原則から、IP Infringementについては、原則としてはライセンシーがその危険を負担することになっています。

しかし一方、Sales of Goodsの場合は、このCaveat Emptorの例外が確立されて、売主が販売する製品については、IP Infringementがないことを保証するのが原則となっています。

例えばアメリカ法においては、UCC §2-312が、Implied Warrantyとして、当該製品類を業として販売する売主の製品が"shall be delivered free of rightful claim of any third person by way of infringement or the like"であることを売主は保証する、と定めています。これにより、"rightful claim"に対しては、買主に生じた損害について、Expectation Damages又はReliance DamagesをCause of Actionとして買主に補償するよう売主に請求できることになります。Implied Warrantyの条項が存在することから、Foreseeabilityについてはある程度紛争になることはなく、あとはAvoidabilityやCertaintyのあたりから、その補償範囲が絞られることとなります。

また、English Law(Laws of England & Wales)においては原則はやや厳しい印象があります。アメリカ法の下では、UCC上で定められているImplied Warrantyについては契約の定めによってそれを排除することが可能となっています。しかし、English Lawにおいては、 Sale of Goods Act 1979 及び Sale of Goods and Services Act 1982によって、売主の製品のTitle及びQuiet Possessionを買主が取得するようなImplied Warrantyが定められていて、Unfair Contract Terms Act 1977(UCTA)のSections 6(1)及び 7(3A)においては、UCTAが適用される事案である限り、当該Implied Warrantyは契約によって排除することができない、とされています。


"Rightful claim"に対するIndemnification


前述の通り、Sales of Goodsの場合、売主(当該製品を業として販売する売主)は自社が販売する製品について、第三者の知的財産権を侵害していないことを保証することが原則とされるわけですが、いざ第三者から知的財産権の侵害に関する警告や訴訟提起がなされた場合、買主に生じた損害・損失をどんな場合でも補償しなければいけないのでしょうか。

例えば、訴訟にて確定判決がなされた場合、その判決によって買主が被った賠償額等は、売主が補償することになるでしょう。しかし、例えばその場合に買主が訴訟中に負担した弁護士費用まで、売主に補償を求めることは可能なのでしょうか。はたまた、仮に買主が訴訟前又は訴訟後に当該第三者と和解をした場合、その和解によって負担した損失や費用を売主に補償するように請求することは可能なのでしょうか。

このあたりが、Indemnification Clauseのドラフティングにおいて考慮すべき事項になってきます。この点、「買主が途中で第三者と和解した場合に、売主に補償義務があるか」ということについては、
①当該第三者の請求がRightful/Reasonable Claimであるか否か 
②買主の和解及び費用負担と、当該Claimについて、Causation(因果関係)が存在するかどうか
この2点が判断要素となるのが、英米法におけるデフォルトルールであると理解しています。①については、アメリカ法では前述の通り、UCC§2-312がそのように定めていますが、English Lawにおいては、Case Lawによって確立されている論理のようです(あまり詳しくは知りませんが、例えばCodemasters Software Company Ltd v Automobile Club De L'Ouest, Court of Appeal - Chancery Division, November 25, 2009, [2009] EWHC 3194 (Ch)においては、Established Case Lawとして、第三者のClaimは"must be of sufficient strength reasonably to justify a settlement"と述べられているようです)。

このRightful Claimというのが、売主にとっても買主にとってもなかなかの曲者である印象があります。自分が判例を調べたところ、興味深い判例が3つ見つかりました。

- Pac. Sunwear of California, Inc. v. Olaes Enterprises, Inc., 167 Cal. App. 4th 466, 84 Cal. Rptr. 3d 182 (2008)

- Phoenix Solutions, Inc. v. Sony Electronics, Inc., 637 F. Supp. 2d 683 (N.D. Cal. 2009)

- Linear Tech. Corp. v. Tokyo Electron, Ltd., 200 Cal. App. 4th 1527 (2011)

この判例についても今回触れるとめちゃくちゃ長くなってしまうので、今日はこの辺にして、次回(もしくは近いうちに)これらの判例について触れつつ、どういった場合に和解案件についても売主が買主に対して補償の責任を負うのか、考えてみようと思います。