特許翻訳とは?(その2)
前回 の続きです。
今回は、特許明細書の翻訳について、解説します。特許事務所内、業界内では、単に、特許明細、明細書、などとも呼ばれます。
特許権を得るには、自分が行った発明の詳細を文書に記載し、これを特許庁に提出して、特許権を申請しなければなりません。この発明の詳細が記載された文書が、「特許明細書」です。前回触れたように、特許翻訳の種類は多岐にわたりますが、一般的に特許翻訳というとこの特許明細書の翻訳を指し、また需要も一番多いものです。特許翻訳を仕事にするのであれば、特許明細書の翻訳ができるようになりましょう。
・特許明細書の役割
特許明細書には、2つの役割があると言われています。
1つは、「権利書としての役割」。これは、発明の権利の範囲を定義することに当たります。明細書には、「特許請求の範囲」と呼ばれる部分があり、この部分が発明の実質的な権利範囲を示すのです。この特許請求の範囲は、英語では「Claim」と訳され、その関係から、日本語でも「クレーム」と一般的に呼びます。「クレームの翻訳は…」みたいな感じです。このクレームの部分は、明細書で最も重要な位置に置かれると共に、翻訳がもっとも難しい部分とされています。特に特許翻訳の初心者にとっては、特許翻訳の困難性がクレームの翻訳に由来している、といっても過言ではないと思います。この役割は、発明の実質的な権利を法律によって保護することを目的とするので、「明細書の法律的な役割」、ともいえるでしょう。
もう1つの役割は、「技術文書としての役割」です。そもそも「特許」とは、ある発明をおこなった者に対し、その発明に関する一定期間の独立排他権を付与するかわりに、代償としてその発明の内容を開示することです。この特許制度のもと、発明者は発明によって利益を得、社会もその発明の恩恵を得ると共に、当該技術分野の更なる進歩が期待できるようになるのです。そのため、特許明細は、当業者(当該技術分野における通常の知識を有する者)が容易にその発明を実施できるように記載されたものでなければなりません。
以上の特許明細書の役割を念頭に置きながら、翻訳者は翻訳していくことになります。詳細は、後に解説します。
なお、厳密に言えば、クレームは、明細書の本文からは独立した文書という位置づけがなされてます。これは、米国がクレームと明細書本文とが別の文書という位置づけをしていることに習い、日本でも2002年の特許法改正により、明細書と特許請求の範囲とが別の文書である、とされたのです。ただ、文書等で厳密に区別する場合を除き、一般的に特許明細書の翻訳とは、クレームの部分の翻訳も含めます。
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