飯沢耕太郎編 『きのこ文学名作選』 | 薔薇十字制作室:Ameba出張所

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 飯沢耕太郎編 『きのこ文学名作選』(港の人)は、祖父江慎によるその斬新過ぎる装丁によって、書店において早く採取されることが望まれる本である。
 ちなみに、名古屋の某書店では、私が一本、採取したので、あと二本しか生えていない。限定3000部なので、書店で生えているのを見かけたら、即採取されることをお勧めする。
きのこ文学名作選/飯沢耕太郎
¥2,730
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 この本のカバーは、菌糸のコロニーであるかのように、いくつも丸く穴が開いている。本棚に一緒に差し込むと、この穴が破れ始める。真に、きのこは儚い生き物である。
 いかも、この本は”書物の歴史が始まって以来、最も斬新な装丁の本”なのだというウワサが、じわりじわりと浸透してきているから、書店で手にした人は、どんなものかとパラパラめくるに違いない。そうすると、作品単位で用紙が異なるし、イラストが多数だし、活字や、活字の並びまでもが異常であり、なかには斜めに走っている文章もあるし、銀色に銀色のインクで印刷されているので、本を傾けて、光の当たり方を加減しないと読めないものすらあることに気づき、なおのこと、いろんな人が本をいじくり、売れる前から本が傷むという危険性が発生するのである。
 さらには、収録内容が、地味だけど、凄く味わい深い、魅力のある文章が連続することに気づくと、ついつい活字の囚われ人となってしまい、ついつい本を握る手に力が入ってしまう。そうすると、中身まで穴だらけのこの本は、ついついビリッといってしまうのである。
 愛書家の皆さん、本が傷む前に早めに入手しましょう。

荻原朔太郎 孤独を懐しむ人
夢野久作 きのこ会議
加賀乙彦 くさびら譚
今昔物語集より 尼ども山に入り、茸を食ひて舞ひし語
村田喜代子 茸類
八木重吉 あめの日
泉鏡花 茸の舞姫
北壮夫 茸
中井英夫 あるふぁべてぃく
正岡子規 蕈狩
高樹のぶ子 茸
狂言集より くさびら
宮澤賢治 朝に就ての童話的構図
南木佳士 神かくし
長谷川龍生 キノコのアイデア
いしいしんじ しょうろ豚のルル

 きのこに関する文学のアンソロジーは、図らずもマイナー文学のアンソロジーとなった。しかし、良き文学とは、いつの世も、常にマイナー文学ではなかったか。少なくとも、派手派手しく、強さでもって勝利する文学は、私の好みではないのである。
 「きのこは文学である。そして文学はきのこである。」(飯沢耕太郎)本当かどうかは、このきのこ料理のフルコースを堪能しながら、仔細に検討することにしよう。