小森健太朗著 『マヤ終末予言「夢見」の密室』 | 薔薇十字制作室:Ameba出張所

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 『マヤ終末予言「夢見」の密室』の祥伝社ノン・ノベル版が刊行された1999年、巷での話題は、専ら五島勉らが撒き散らしたノストラダム大予言に基づく終末論であり、今のようにマヤの暦に基づく2012年終末説ではなかった。2012年が間近に迫った今、本書は再び甦る。

マヤ終末予言「夢見」の密室 (祥伝社文庫)/小森 健太朗
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 作中に登場するのは、この2012年終末説を踏まえ、文化人類学者のカルロス・カスタネダが解明した呪術師的世界観と、精神分析学者ヴィルヘルム・ライヒによる「性格の鎧」批判を結びつけ、メンバーの潜在能力を開発すると同時に、マヤの神界との回路を開こうとする宗教的カルト「ボロン・マイェルの家」である。彼らのコミューン的生活は、一般社会の良識から逸脱するものとなっており、「性格の鎧」を打ち砕き、霊的能力を覚醒させるために、裸になって抱き合ったりするボディワークやセラピーをも実施している。
 前半、「ボロン・マイェルの家」の信者の一般社会への奪還闘争が描かれ、洗脳批判の理論が持ち出されたりする。また、信者の家庭環境が描きこまれることによって、教団の生まれた心理背景が浮かび上がるようになっている。(このあたりは、オウム事件を連想させるものである。)
 後半、「ボロン・マイェルの家」内で、密室殺人事件が起きる。謎を解くのは、コリン・ウィルソンを読み、超常現象と不可能犯罪に並ならぬ関心を示す星野君江。ここで示されるのは、妖しげなカルトや超能力に眉をひそめる人でも、驚嘆するような合理的解釈が鮮やかに示される。
 本書は『バビロン、空中庭園の殺人』や『星野君江の事件簿』と並ぶ星野探偵シリーズの一冊であると同時に、『ネヌウェンラーの密室(セルダブ)』に出てくる新郷敏之の前日譚がわかる作品となっている。
 ジャンルとしては、コリン・ウィルソンの『迷宮の神』に近い気がする。『迷宮の神』も、神秘主義と性の問題を色濃く扱っていたからである。『マヤ終末予言「夢見」の密室』でのカルトの描き方は、相当踏み込んだところまで進んでいて、評論では描けないことでも、小説では描くことが許されるということなのだろう。