「外国人技能実習制度」ってご存知でしょうか。発展途上国の外国人を「実習生」として日本に招き入れ、働きながら技術を習得させ、その習得した技術を母国に持ち帰らせて経済発展に役立ててもらおうという制度です。1993年に創設されたものですから、この制度が発足してからもう20年以上も経過しました。

 OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)による海外貢献と言えば「聞こえ」が良いですよね。しかし、現在68職種ある各分野における「実習」は、その大半が「技術の習得」など期待できない「単純労働」と言っても過言ではありません。たとえば、農業・漁業・繊維・縫製業など、あまり日本人が好まない分野での「非熟練労働者(=単純労働者)」の不足を解消する目的で「実習制度」が利用されているのが実態なのです。

 そもそも外国人が「単純労働」の目的で入国することは法律上禁じられています。それを我が国の勝手な都合から、人手不足の分野における「実習」を名目に、「外国人の単純労働」を可能にする「法の抜け穴」が出来上がっているわけです。

 建前が「実習」なので、「労働者の保護」を踏まえた制度設計はありません。実習生は、技能実習の受け入れ先が特定されなければ在留資格が与えられず、原則として職場移転の自由もありません。仮に、実習生が受け入れ先の待遇等に不満を持った場合でも、他の職場への転職ができないばかりか、受け入れ先の不正などを内部告発したりすると、実習の継続が事実上不可能となり、望まない帰国を余儀なくされてしまいます。

 「技能実習による海外への技術移転」あるいは「発展途上国の人材育成」という建前に対し、実態は「外国人単純労働者の雇用」であり、建前と実態が大きく乖離していることは明らかです。これまでにも、実習生を劣悪な労働環境に置いて低賃金で酷使するといった問題が数多く指摘されてきました。

 このような状況下、将来「介護分野」での「人手不足」が深刻化する見込みとなったことを受け、政府は「外国人技能実習制度」の対象に「介護」を加え、介護分野への外国人受け入れを拡大する方針を打ち出しました。実習生の受け入れを2016年から開始することも発表されています。

 政府は、来日時点で一定の日本語能力を有する実習生のみを受け入れ、2か月間の研修で介護の知識・技術を学ばせた後、介護施設などで働きながら技能を習得させる…としています。また、企業側には賃金などの待遇面を日本人と同等以上とすることを義務付ける一方、実習生の受け入れ期間の上限を現在の3年から5年に延長する方針です。新たに監督機関を設置して、受け入れ団体や企業への立入調査権限を付与したり、人権侵害を受けた実習生を一時保護できるようにするなど、不正対策も強化される見込み…とされています。

 しかし、15万5000人(2013年末現在)という多数の外国人実習生の存在、陰で暗躍するブローカー、実習生に対する人権侵害や不正行為の多発、構造的なピンハネの実態等々…があって、海外からは「人身売買」とか「現代の奴隷労働」などと強く批判されています。

 政府は、現状の「技能実習制度」を見直したり、拡充したりする形で海外からの批判を跳ね返そうとしていますが、当初の「制度設計」が誤ったものである以上、いくら「弥縫策」を重ねたところで、このような汚名を返上し我が国の名誉を挽回することは不可能だと思います。思い切って一旦この制度を廃止したうえで、あらためて「制度設計」を一からやり直した方が、早くて確かだと思うのですが…。

兵庫県弁護士会/神戸市中央区/藤本尚道法律事務所
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