目が覚めたら | ✧︎*。いよいよ快い佳い✧︎*。

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主人公から見ても、悪人から見ても、脇役から見ても全方位よい回文世界を目指すお話

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  かつて私は、この広い空を自由に飛ぶことが出来ました。


  姿形を変えたり

  奇跡を起こすことも

  病を癒すことも


  軽々と行えたのです。


 
  ですがひとつだけ、

  私には肉体だけがありませんでした。



  痛みも苦しみもなく
  老いも衰えもない


  それでも


  目の前で泣いているその人に

  差し伸べる手が欲しくて


  愛しい子どもたちを抱きしめる

  大きな腕が欲しくて



  どんな嵐からも守り抜く盾となる

  悲しみの底の冷たさを知った心に寄り添う


  人に、なりたかったのです。



   魔法使いのおばあさんは言いました。


  「そんなに下に行きたいのなら、身体を纏う翼を手放しなさい」


  魔法使いのおばあさんは、物語に出てくるようないじわるな存在ではありません。


  最後まで、私を案じてくれていました。



  何の躊躇いも持たず

  背中の羽根を、一本ずつ抜きました。

  不思議と苦痛は感じません。


 
  その羽根はやがて階段となり

  螺旋のようにぐるぐると輪を描いて


  私を地上に降ろしてくれました。



  もう、

  空を飛ぶことも
  姿を変えることも
 
  若いまま美しくあることも出来ないけれど


  私の夢が叶うのです。



  伝えたかった想いを声に乗せて
  握りたかったその手を取って


 
  あなたに逢うことが出来るのだから。

 

  私の背中は、少しは頼りがいのあるものになりましたか?


  私の言葉は、あなたの力にはなれましたか?


  私の光は、あなたに孤独ではないことを信じてもらうことが出来ましたかーー



 
  かつて私は、この世界を飛び回り


  天と地の宝を護っていました。


  今は、人をしています。


  淋しいことも
  困難なこともあったけれど



  些細なことと、やっと笑い飛ばせるようになりました。



  目の前で泣いているその人に手を差し伸べ

  愛しい子どもたちを抱きしめて


  あなたと結ばれ老いていく



  なんて素晴らしい、


  私の人生!


  
  なんて輝いた


  この世の未来!