・人口が114万人に対し120万人虐殺は嘘 ~中国の主張する稚拙な数字トリックを暴く~
光明日報、「ダライ・ラマはチベットに災いをもたらしている」:人民網
3日付けの「光明日報」はチベット社会科学院の研究員の文章を掲載し、その中で「事実が証明しているように、ダライ・ラマ勢力はチベットに災いをもたらしている」と指摘しました。文章は、「ダライ・ラマは1950年代、祖国を分裂しようとする武装反乱を起こして以来、民族間の矛盾と暴力をそそのかしてきた。今回の暴動は人為的な災難である」としています。
文章はまた、「長年来、ダライラマはよく『中国はチベットで120万人のチベット人を殺した』と訴えてきたが、1950年代のチベット人口はわずか114万人だった。ダライラマのロジックによれば、チベットは既に無人区になった。しかし、現在のチベット自治区の人口は280万人余り、そのうちチベット族とその他の少数民族は95%以上を占めている」としています。(翻訳:ooeiei)
中国の新聞に掲載された文章です。あまりにも稚拙すぎます。
ダライラマは120万人虐殺されたと言っているが、当時のチベット人口は114万人。ありえない。という論法です。同じような話を聞いたことがありますね。南京事件30万人説への反論です。南京の件は、多くの欧米人記者など、第三者の外国人によっても当時の南京城内の人口が20万程度であったことが報告されており、その反論の裏付になっていますが、この中国のチベット虐殺否定説はどうでしょうか。少し検証してみましょう。
まず、当時のチベット人口が114万人だったという前提。これは本当でしょうか。この数字のカラクリは、後半の「チベット自治区」という言葉がミソになります。以前の記事でも書いたことがありますが、チベット亡命政府が主張するチベット領は、チベット自治区だけではなく、中国の周辺の省にもまたがります。詳しくはこの地図を見てください(ダライ・ラマ法王日本代表部事務所より )。
ダライ・ラマ法王日本代表部事務所のHPによると、この地図に示された土地の人口は1959年で600万人 です。地図中で”ウ・ツァン”と書かれているところが現在のチベット自治区です。中国の主張する当時の114万人という人口は、チベット自治区内だけの数字をさしていると思われます。
一方で、ダライ・ラマの主張する120万人虐殺という数字は、チベット自治区だけではなく、上記地図のチベット領全てでの犠牲者数を表しています。詳細は、以下のリンクとこのページをご覧下さい 。ウ・ツァン地区だけを見ると、1949~1979年の間の犠牲者数が42万7千人で、1950年代の人口114万人という中国の主張が正しいとして、別につじつまが合わない数字ではありません。
◆ チベット3州での死者数(チベット亡命政府のまとめ)
ウ・ツァン | カム | アムド | 合 計
|
|
---|---|---|---|---|
拷 問 | 93,560 | 64,877 | 14,784 | 173,221 |
死 刑 | 28,267 | 32,266 | 96,225 | 156,758 |
戦 闘 | 143,253 | 240,410 | 49,042 | 432,705 |
飢 餓 | 131,072 | 89,916 | 121,982 | 342,970 |
自 殺 | 3,375 | 3,952 | 1,675 | 9,002 |
傷害致死 | 27,951 | 48,840 | 15,940 | 92,731 |
合 計 | 427,478 | 480,261 | 299,648 | 1,207,387 |
つまり、中国紙の主張はチベット領全域での犠牲者数と、チベット自治区限定の人口で比較しているところに数字のトリックがあるのです。
このような単純なミスは、韓国の新聞でもよく見られますが、韓国のそれとは少し質が違うようにも思えます。韓国の場合、有名は報道機関であっても自分達に都合の良い情報を見つけると、裏づけ調査もせずにすぐにこれ見よがしに発表してしまう傾向があり、よくよく調べるとそれが間違いだったということがよくありますが、中国の場合は少し違う気がします。中国では、「チベットは昔から中国の一部。ダライ・ラマは国家分裂を画策する最悪のテロ首謀者」と徹底的に教育されていますから、この記事もそういった認識を国民に植え付ける為と見て間違いないでしょう。この程度の数字のトリックはネットで数分検索すればすぐにわかることですが、チベット関連の情報が一切シャットダウンされている中国国内では、それを調べるのも困難なのかもしれません。しかし我々はそうではありません。中国は世界まで騙すことができないことを認識すべきでしょう。
※読者の方に質問です。当ブログは現在中国からアクセスできるのでしょうか?もし中国からアクセスしている方がいらっしゃいましたら教えてください。
参考書籍:
中国はいかにチベットを侵略したか
マイケル ダナム Mikel Dunham 山際 素男
囚われのチベットの少女
フィリップ ブルサール ダニエル ラン Philippe Broussard
ダライ・ラマ自伝 (文春文庫)
ダライラマ The Dalai Lama of Tibet 山際 素男