精神疾患の春先の悪化の背景やパターンについて | kyupinの日記 気が向けば更新

精神疾患の春先の悪化の背景やパターンについて

桜が咲く前後、比較的安定していたのに急に悪化することがある。今回はこの悪化の背景やそのパターンについての話。

 

一般に「春先に悪化する」人たちは、精神疾患でも精神病の人たちが多いように見えるが、それ以外の疾患でも何らかの変化がみられることが多い。この時期の悪化をよく観察すると、ドパミンあるいはノルアドレナリン優位になっているように見える。

 

例えば統合失調症の場合、3月くらいに幻聴や悪化する、あるいは被害妄想が酷くなることがある。その結果、興奮状態に至り入院せざるを得なくなることがある。これらは抗精神病薬によるドパミン、ノルアドレナリン神経系の抑制が解放されて生じたように見える。

 

このようなメカニズムだと、うつ病、うつ状態の人はかえって良くなるのでは?と思うかもしれない。ところがそう簡単ではないのである。

 

冬の間、全く動けず入浴もしたくない、外出もしたくない状態から抜け出し、少しずつ動けるようになる人がいる。これは単にこのドパミン、ノルアドレナリンの神経系の相対的な活性化で説明できる。

 

しかし双極性障害のうつ状態では、うつ状態のままドパミン、ノルアドレナリンだけ活性化しても躁うつ混合状態に移行し、亜昏迷に至ったり自殺企図などが出現したりする。また亜昏迷、自殺企図が診られないとしても、イライラ、いつも怒りっぽいなどのため、家族と衝突しやすくなったりする。これは典型的なエネルギーが良い方向に働かないパターンだと思う。また、双極1型の場合、明らかな躁転を来す人もいる。これらもドパミン、ノルアドレナリンの神経系の相対的な活性化で説明できる。

 

広汎性発達障害系や老年期の精神障害などの器質性疾患では、もう少し曖昧なさまざまな変化が起こる。これらも、わりあい理解できるものが多い。

 

例えば、3月~4月になると嘔気が悪化する人たちがいる。このような人は、コントミンなどのD2遮断作用を持つ薬が有効である。そういえば最近、ジプレキサに、「抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)」が適応追加になった。これはドパミンを抑えることで効果を発現し理解しやすい。

 

また春先にパニックが酷くなる人たちがいる。パニックは一見、ドパミン、ノルアドレナリンとは無関係に見えるかもしれない。しかしながら、ブプロピオンなどのドパミン、ノルアドレナリン作動薬はパニック障害を悪化させることが知られており、これもわりあい実際に沿っている。

 

広汎性発達障害系では、この時期に人の声や物音に過敏になる人たちがいる。これもドパミンないしノルアドレナリン系の活性化で理解できる。また、この時期にぎくしゃくして体の動きが止まりやすいというカタトニアも同じように考えることができる。

 

説明がつきにくい病状変化もあるが、わりあい理にかなっているものの方が多い。

 

3月からの早春は進学や就職などで環境が激変し「非日常の空間」にいることが多い。これは相対的にドパミン、ノルアドレナリン神経系を活性化する環境である。日本国内ではあまり動けないのに、海外では見違えるように動ける人がいるが、このような背景があるからであろう。

 

しかし、自宅から出ない引きこもりの人たちも少なからず気候の影響を受けるので、環境的なものだけでは片づけられない。

 

では5月病とはなんだろう?

 

5月病は桜の咲く時期のドパミン、ノルアドレナリン神経系の活性化の反動とみることも可能である。5月病は学生さんに使われることが多いので、気候より非日常の空間に入るなど環境変化の反動であろう。

 

彼らは元々、双極性障害の躁状態から出発していないこともあり、ドパミン、ノルアドレナリンの活性化の反動がうつ状態ではなく「無気力」や「アパシー」「アンヘドニア」なるような気がする。

 

無気力、アパシー、アンヘドニアはセロトニン系に関わるSSRIでは改善しにくいことが知られている。これらの症状はセロトニン系の活性化でかえって悪化することもあるほどである。

 

無気力、アパシー、アンヘドニアはドパミンが乏しいから生じているのである。

 

参考

精神疾患における非日常の考え方(12)