双極性の深いうつとバルプロ酸シロップ | kyupinの日記 気が向けば更新

双極性の深いうつとバルプロ酸シロップ

過去ログでは、デパケンRは確かなエビデンスはないものの、双極性のうつ状態に有効のように見えるという記事がある。

以下「デパケンR」から抜粋するが、この記事はデパケンRの最初の記事であり、最近の記事に比べかなり気合が入っている。

最初に書いたように現在はデパケンR(バルプロ酸)は躁状態に適応を持つ。躁状態には、リーマス、デパケンR(バルプロ酸)、テグレトール、および抗精神病薬が処方されているが、最も有名なのは、やはりリーマスだと思う。リーマスとデパケンRは、躁状態に対しての効果には差がないことがわかってきている。いずれの薬剤も躁状態に対しての有効性についてはエビデンスがあるのである。しかしその薬剤としての特性、症状に対しての効果が異なる。

リーマスは、古典的な爽快感、多幸感を伴うようなピュアな躁状態には有効性が高い。一方、デパケンRは、躁鬱混合状態や急速交代型のような紛れがあるような躁状態にはリーマスより有効性が高くなっている。平凡に言えば、複雑なタイプの躁うつ病の場合、デパケンRの方がうまくいくことが多いのである。これは臨床的な経験にも一致している。それとこれは重要な点だが、リーマスは服用し始めて効果の発現が遅い。2~3週間はかかるといわれている。急性の著しい躁状態には、やはりセレネース液やロドピンなどの抗精神病薬の方が即効性があるし、まだデパケンRの方がリーマスより効果が早く発現する。

躁うつ病のうつ状態に対しての効果はどうであろうか? 以前、急速交代型の項で少し触れたが、躁うつ病のうつ状態の治療は根本的に単極性のうつ病の治療とは考え方が異なる。躁うつ病のうつ状態に対して、リーマスは有効性が確かめられており、デパケンRは効果が確定していない。軽度改善くらいの報告はみられている。このあたりは、精神医学でもまだよくわかっていないものに入る。注意点として、リーマスの日本での適応には「躁病および躁うつ病の躁状態」となっており、明確に躁うつ病のうつ状態とは書かれていない。

躁うつ病の維持療法についてだが、リーマスについては研究も多く、ほぼ維持療法に有効性があると考えられている。デパケンについてはやや報告数が少なくなるが、わりと良いというものもある。はっきり確定している面ではリーマスが上回っているが、デパケンRも臨床経験的にはけっこう良いと思うのである。副作用の面で、リーマスは治療域と中毒域が接近しており腎臓に副作用を持つので年配の患者さんには処方しづらい。それに比べ、デパケンRは肝臓に負担をかける方なので血液検査で監視しやすい。腎臓は少し悪くなっているくらいでは簡単にできる検査で見えてこないからである。

上記、赤の部分は、当時の自分の臨床感覚から記載している。以後、既に10年近く経つが、デパケンRが双極性のうつ状態に有効に思われるケースはある一定の確率で存在する。しかもここが重要だが、患者さんのほとんどがデパケンRや普通のデパケン錠に比べ、バルプロ酸Naシロップの方が良いと答える上、

深いうつからアップさせる効果が大きい。

と言う。

他の処方するタイミングとして、セロクエルやジプレキサなどの過食、体重増加の副作用で困る際の代替の薬物療法として選択できる。既にデパケンRを処方している人であれば、剤型変更も有力だと思う。

なお、デパケンRの双極性うつ状態への効果のエビデンスは10年前より増している。3つの無作為化試験において、双極性うつ状態の急性期に対しバルプロ酸(デパケン)はプラセボより有効であった。これらの研究はいずれも規模が小さく、うち1つの研究では有意差は得られていないが、その他2つの研究では有意差が得られている。

注意点として、双極性のうつ状態をターゲットにする場合、あまり血中濃度を上げない方が良い患者群が存在する。躁状態には一定以上の血中濃度が必要に見えるが、特に双極性うつ状態を呈しやすい双極2型の人たちはそうとも言えない。

血中濃度が高すぎると、うつ状態がかえって悪化するケースがあることに注意したい。なぜこうなるかだが、双極2型はかなりノイズ的な症例が含まれているからであろう。