DSM5についての雑感 | kyupinの日記 気が向けば更新

DSM5についての雑感

今日の話は、DSM5についての雑感。

元々、精神科臨床での自立支援法や精神保健福祉手帳、あるいは障害年金では診断名のすぐ後にICD10のコードを付けるようになっており、最低限2桁の数字を入れるように指導されている。

例えば、統合失調症であればF20である。

もう少し以前だと1桁表示でも良かった。この場合、統合失調症はF2である。最近の障害年金の更新書類(正確には「年金受給権者現況届」)の前回の記載を見るとたいてい1桁表示なのでこの点でも少し変化がある。

このように日本では診断基準はICD10の方がメインであり、DSMは意識、あるいは議論の対象にはなっているが未だに本流ではない。またDSMⅣまでの多軸診断は遂に日本では馴染むことなく終わってしまった。今回のDSM5では多軸診断が廃止されているが、これはICD10が多軸診断を採用していないことも関係している。なお、WHOによるICD10は今年2015年に改訂される予定だったが、2017年に延期されている。

DSMは今回DSMⅤではなく5となっている、つまり今回からローマ数字を採用していないのは、5の後に細かい数字を付記して、バージョンアップを表示しやすくしているためと考えられる。例えるなら以前のアップルのOSのバージョン表示のようなものである。

今回のDSM5はICDの診断基準をかなり意識しており、ほとんどの診断名にICD9ないしICD10のコードが付加されている。なお、ICDの診断基準は2017年に改訂されればICD11となるはずである。

一方、DSMはAPA(米国精神医学会)による診断基準なので、この方がローカルな診断基準と言える。日本の精神科の提出書類がDSMではなく、ICD10のコードを義務付けているのは当たり前である。また、10年くらい前に比べ、提出書類の診断コードの付記にうるさくなったのは、電子化あるいは統計化を容易にする面もあると思われる。

今回、DSM5の大きな改訂点の1つが、DSMⅣで発達障害を含めた「通常、幼児期、小児期、または青年期に初めて診断される障害」とされていたものが、今回の改訂で発症年齢にかかわらず全ての障害群の1番目として、「神経発達症群/神経発達障害群」と位置付けられたこと。

今回の神経発達症群/神経発達障害群では、自閉性障害、アスペルガー障害、広汎性発達障害を自閉性スペクトラムに統合している。したがってDSMに限れば診断名としてアスペルガー障害はなくなっているが、ICD10では記載がある上、日本ではICD10が主なのでアスペルガー症候群の診断名がなくなったわけではない。

DSM5の神経発達症群/神経発達障害群では、自閉性スペクトラム症とADHDの併存が認められたことも大きな変更点の1つだと思われる。これは臨床の実際に沿ったものとなっている。

なおDSM5では、2番目には統合失調症スペクトラム障害及び他の精神病性障害、3番目には双極性障害および関連障害群の順になっている。

ICD10では、最初のF00-F09は症状性を含む器質性精神障害が位置づけられている。このF00-F09には、例えばアルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、ピック病、アルコールや精神作用物質によらないせん妄、脳炎後症候群などオードックスな器質性疾患が含まれる。

このF00-F09の次のF10-F19は精神作用物質使用による精神及び行動の障害が位置しており、ここにはアルコールやアヘン、コカイン、大麻などの薬物、カフェイン、鎮静薬、催眠薬、シンナー、タバコなどの急性中毒、依存、離脱、精神病性障害などが含まれており、このカテゴリーも広義の器質性疾患に入るものである。

ICD10では、F20-F29 統合失調症,統合失調症型障害及び妄想性障害、次いでF30-F39 気分[感情]障害 と位置づけられており、器質性疾患の次に古典的内因性疾患が位置していることになる。

DSM5の全ての障害群の一番最初に「神経発達症群/神経発達障害群」を位置づけているのは、極めて多くの精神疾患の背景の(一部に)、発達障害が関与しているのではないか?という示唆が込められている。

現代社会の精神疾患診断には、大きな診断体系を発達障害的器質性背景から再構築すると言う衝撃的改訂の可能性も秘めている。もしそのようなことをしたならば、従来の診断学は全てとは言わないが、かなりの部分が陳腐化すると思われる。

しかし今回のDSMではそこまでの大胆な改訂にはなっていない。むしろ保守的な改訂だったように思う。