カプランの教科書の「自殺」の記載について | kyupinの日記 気が向けば更新

カプランの教科書の「自殺」の記載について

今回は自殺と精神疾患および精神科治療について、カプラン臨床医学テキスト(第2版)から、自殺の項目の重要部分を抜粋して紹介したい。(人種、移民、州による相違、精神分析の話などは今回の話題とは関係がないため省略)

カプランの教科書は多くの精神医学の論文から得られる総合的な知見や意見が記載されている。したがって、ある精神科雑誌の単発の論文より遥かに信頼性が高い。

以下、抜粋。

自殺する人の 32%は死の前 6 カ月以内に医療上の処置を受けていた。検死による研究では、自殺の犠牲者のおよそ 25~75%において身体疾患があることが示されている。そして身体疾患は自殺の11~ 51%において重要な寄与因子であると推定されている。どちらも割合は年齢とともに増加する。例えば自殺する男性癌患者の50%は、診断を受けてから 1年以内に自殺している。

精神的健康
自殺においてきわめて重要な精神医学的要因には、物質乱用、うつ病性障害、統合失調症、その他の精神疾患が含まれる。自殺あるいは自殺企図をする人のほぼ 95%には精神疾患の症状がある。この数字のうち80%はうつ病性障害によるものであり、統合失調症が10%、認知症あるいはせん妄が5%である。すべて精神疾患患者の 25%はアルコール依存でもあり重複診断をもっている。妄想性うつ病の人は自殺の危険性が最も高い。うつ病性障害の人の自殺の危険性はおよそ15%ある。衝動的行動や暴力行為の履歴のある人もまた25%という高い自殺の危険性をもつ。 理由の如何に関わらず、過去の精神科入院は自殺の危険性を増す要因である。

精神科患者
精神科患者の自殺の危険性は、そうでない人の 3~12 倍である。危険性の程度は、年齢、性別、診断、入院か外来かによって異なる。年齢を対比させてみた場合、かつて入院したことがある精神科患者の男性・女性は、一般人口と比べてそれぞれ 5 倍と10 倍の自殺の 危険性が高い。入院したことのない精神科外来患者の男性・女性の自殺の危険性は一般人口と比べてそれぞれ3 倍と4 倍の高さであった。入院経験のある精神科患者 がより高い自殺危険性を示すのは深刻な精神障害のある患者(例えば電気けいれん療法[ electroconvulsive therapy : ECT]) を必要とするようなうつ病性障害の患者)が入院する傾向があるという事実があるからである。精神科診断で自殺の危険性が最も高いのは男女とも気分障害である。一般人口では自殺する人は中年ないしそれ以上の年齢が多い傾向があるが、精神科患者では自殺者は相対的に若いという研究報告が増えている。ある研究では、男性の自殺者の平均年齢は29.5 歳、女性は38.4 歳であった。こうした自殺例の相対的な年齢の低さは、若年発症の2つの慢性的精神疾患、統合失調症と反復性大うつ病性障害が、こうした自殺の半分以上に寄与していることからある程度説明され、そしてこのことは精神科患者の自殺の研究の多くにみられる年齢と診断のパターンを反映しているといえる。

うつ病性障害
気分障害は最もよく自殺と関連する診断である。うつ病性障害における自殺の危険性は 、主に患者がうつ状態になる時に高まるのであり、過去25 年の精神薬理学の進歩はうつ病性障害患者の自殺の危険性を下げたと考えられる。それにも関わらず気分障害の患者の年齢調整済みの自殺率は、男性患者で10 万人あたり400 人、女性忠者で 10 万 人あたり180 人にのぼると推定されている。うつ病性障害の患者の多くは病気の後期ではなく初期に自殺する。女性より男性の自殺が多く、うつ状態の人の自殺の機会は、独身、別居、離婚、配偶者との死別、近親者との最近の死別の場合に多くなる。地域社会におけるうつ病性障 害患者の自殺は、中年またはより年配で起こる傾向がある。気分障害のどの患者が高い自殺危険性をもつかが調査されてきたいくつかの研究がある。これらの研究においては、社会的孤立がうつ病患者の自殺傾向を高めると指摘している。この知見は自殺する人は社会への結びつきが少ないという疫学的研究の資料と一致している。うつ病患者の自殺はうつ状態という出来事の最初あるいは最後に起こりがちである。他の精神科患者と同様に病院から退院して1カ月が危険性の高い時期である。

研究により自殺するうつ病患者の3分の1か、それ以上が、病院から離れて6カ月以内に、おそらく再発のために自殺することが示されている。外来治療まで考慮すると、自殺するほとんどのうつ病患者は治療を受けた既往がある。しかし自殺する時点では、半分以下しか精神科治療を受けていなかった。詳細な検討によれば、治療を受けていた人々でも治療は十分行われたとはいえなかった。例えば、抗うつ薬を処方されていた患者の多くは、治療的効果の不十分な服用量しか処方されていな かった。

一番最初のパラグラフに、「自殺する人の 32%は死の前 6 カ月以内に医療上の処置を受けていた」とあるが、これは68%の人は6か月以内に医療上の処置を受けていないことを示している。また。最後のパラグラフでは、うつ病の患者でも同様に、自殺する時点で、半分以下しか精神科医療を受けていなかったと記載されている。

過去ログでどこだったか忘れて検索できないが、精神科救急外来では、自殺未遂で救急搬送される患者は、意外に精神科にかかっていないという記載がある。