音楽療法 | kyupinの日記 気が向けば更新

音楽療法

今日のエントリは急に思いついて書いたもので、まとまったものではない。

ある時期、研修医を終えたばかりの頃、勤めていた病院に音楽療法を実践している女医さんがおり、時々、見学に行っていた。ぼんやりと見ている限りだが、単にレクレーションをしているようにしか見えなかった。実際、作業療法などとあまり変わらなかったような気がする。

対象者は全て統合失調症の患者さんなのである。施行直後の精神病の状態変化は目視できなかったが、作業療法やレクレーションの視点では、しないより遥かにマシである。

統合失調症の場合、音楽に限らず、何らかの精神、身体の穏和な揺さぶりは荒廃の進行を抑制すると思われる。

音楽療法の1つに音響療法というものがあり、音響による波動が筋肉や他の組織をゆさぶり、それがリラクセーション効果を及ぼす。

しかし、その波動は著しく大きなものだとかえって有害である。例えば、戦闘中に兵士の近くに落ちた爆弾の音響や波動だけで、思うように動けなくなるほどの身体ダメージをもたらす。また、第二次大戦中、ドイツV1ロケットがベルギーに落下した際に、直接の爆撃を身体に受けてはいないのに、ロケットの衝撃により、映画を観ている状態で椅子でフリーズしたまま多くの人々が死亡していたと言われる。

つまり、音や音楽は身体や精神に少なからず影響を及ぼすことがわかる。

平凡に考えても、気分を落ち着かせるような音楽は、ヒトの自律神経を副交感神経優位にさせるので、あらゆる疾患に治療的と思われる。

従ってこの視点では、穏和なクラシックの音楽は治療的であり、一方、大音響でノイズなどを多く取り入れた一部のロックは、神経の緊張をもたらし治療的でない可能性が高い。一部のロック・ファンには、騒音・ノイズとしか言いようがないロックを好み、それで嫌なことを忘れることができ気分が落ち着くという人もいる。

統合失調症に限らず、発病初期では聴覚過敏が生じ、あらゆる音楽や音声を拒絶する病態もあるので、その人に良いかどうかは、症状の縦断的なものも重要であろう。

本来、音楽療法といっても、実際に歌を歌うことや演奏することも含まれる。一部のミュージシャンでは、創作活動や演奏が治療的になっている人も存在する。一方、患者さんに実施するプログラムは音楽を聴くだけのものが多い。

実際に統合失調症の患者さんに歌わせてしまうと、穏やかに聴くだけとは異なり脳への影響が大きく、それだけで夜間不眠になる人もいる。賦活的に働くからである。

一方、音楽の賦活作用をうまく利用しているものもある。例えば、認知症のデイサービスでは、音楽を取り入れているプログラムもあるが、癒し系クラシックよりむしろシンバルや太鼓など刺激的で騒々しいものの方が治療効果が高いと言われている。

認知症の場合、簡単に言うと昼間と夜間のメリハリがなくなることが良くないのである。それが夜間不眠やせん妄、妄想などに結びつきやすい。日中、騒々しいタイプの音楽を聴かせたり、実際に歌わせることにより、日中の覚醒レベルを上げることができる。この作用が認知症の進行を抑制し、夜間も良眠しやすくなる。

音楽療法は歴史が古く、聖書ではダビデがハープを演奏することにより、サウル王のうつ病を治療しようと試みたと記載されている。

また、アーユルヴェーダでは、音楽を健康増進に用い、サーマヴェーダ(ヒンドゥー教の歌詠のための聖典の1つ)として知られるある音響を用いて、腫瘍の成長を抑制するとされている。

音楽療法は精神科に限らず、医療全般の代替療法の1つと言えるであろう。