ブプロピオンの作用時間の異なる剤型について | kyupinの日記 気が向けば更新

ブプロピオンの作用時間の異なる剤型について

今回の記事はやや特殊なものだ。

ブプロピオンは、現在のところ、唯一のノルアドレナリン及びドパミンの再取り込み阻害薬である。未だ、本邦では発売されていないが、今の流れだといずれ日本でも発売され、処方できる抗うつ剤の1つになるであろう。

ブプロピオンの良い点は鎮静がないことである。例えば、3環系抗うつ剤のトリプタノールや4環系のルジオミール、NaSSAのリフレックスは鎮静的な抗うつ剤とされている。これらに比べ、全くと言って良いほど鎮静がない。

また、SSRIでよく診られる性機能障害の副作用がない。また、中止の際に離脱症状が全くないと言われている。これは臨床経験と一致する。

特殊な利点として、禁煙の補助剤として使えることである。禁煙でのブプロピオンはZybanという異なる商品名で販売されている。一方、抗うつ剤としてのブプロピオンはWellbutrinという商品名で、アメリカでは既に1985年から販売されている。

ブプロピオンの1つのメリットとして催奇形性が低いことが挙げられる。ブプロピオンの催奇形性カテゴリーはBである。実は、抗うつ剤でBにカテゴリーされているものはほとんどない。

【B】
動物生殖試験では胎仔への危険性は否定されているが、人、妊婦での対照試験は実施されていないもの。あるいは、動物生殖試験で有害な作用(または出生数の低下)が証明されているが、ヒトでの妊娠期3ヵ月の対照試験では実証されていない、またその後の妊娠期間でも危険であるという証拠はないもの。


ブプロピオンのように古い薬がなかなか日本で発売されなかったのは、個人的な推測ではあるが、いくつか思いつくものがある。

1、ブプロピオンはドパミン系に作用するものであること。カプランの書籍では、「ブプロピオンはその分子構造が、アンフェタミンやダイエット薬のジエチルプロピオンに類似した単環系のアミノケトンである」と記載されている。このタイプの薬物はいかにも日本は嫌いそうである。実際、ブプロピオン治療中にアンフェタミンの尿検査の結果が擬陽性になったと言う報告が1つだけある。もしブプロピオンが日本で販売された場合、状況によれば、覚醒剤使用の証明ができず書類送検できない事態もあるかもしれない。日本では、覚醒剤使用は特に重大な犯罪なので、できればブプロピオンを発売したくない状況はある。(近年のパソコン遠隔操作事件以後、IPアドレスの証拠が曖昧になったことと似ている)

2、ブプロピオンは当初、アメリカで推奨処方用量が多すぎ、けいれん発作などの副作用が生じ、いったん発売停止になった経緯がある。(クロザピンに似ている)厚生労働省は常にこのようなことには慎重である。

3、日本に関して言えば、抗うつ剤のうちパキシルが長い期間、高いシェアを占め、それを脅かす抗うつ剤がなかった。パキシルとウエルブトリン(ブプロピオン)は同じグラクソ・スミスクラインの商品なので、成功するかどうかわからないような薬を、積極的に販売したくないという心理は働く(パキシルのシェアを奪ってどうするみたいな・・)。

現在、パキシルは日本でもジェネリックの時代に入ったため、上記の特に3について、グラクソも積極的に発売に動いてもおかしくない。

さて、ブプロピオンは3タイプの作用時間の異なる薬が発売されている。

1、ブプロピオン(即時放出型)
1日3回服用。即時放出型のブプロピオンは、胃腸管から速やかに吸収される。服薬後、2時間以内に最高血中濃度に達する。おそらくだが、この急速に血中濃度が上昇する性質は、初めて服薬する人にとって、SR(持続放出型)やXL(延長放出型)に比べ、効果を実感しやすいと言う臨床感覚がある。少なくとも、最初からSRやXLを始めず、即時放出型から開始すべきだ。その方が長い期間低空飛行を続けている人にとって、インパクトが大きい。

ブプロピオンSR(持続放出型)
1日2回服用。持続放出型の最高血中濃度は服薬後、3時間で現れる。従って、即時放出型とSRは時間が経つと服薬感覚の相違があまりない。服薬開始後、何ヶ月も経ち、ブプロピオンの存在感が減ってきたケースでは、朝1回ブプロピオンSR100mgまたは150mgだけ飲んでもさほど効果が変わらないことも多い。

ブプロピオンXL(延長放出型)
1日朝1回服用。延長放出型の最高血中濃度は服薬後、5時間で現れる。しかし、延長放出型の最高血中濃度自体は変わらないと言われる。ブプロピオンXL300mg錠の24時間トータルの薬物暴露量は、SR製剤の150mg1日2回と変わらない。ブプロピオンXLを朝1回服用する場合、夜の血中濃度が下がっているため、不眠の副作用が出にくくなる。しかし、賦活系薬物で不眠になりやすい人は剤型による差はあまりない。

意外に知られていないのは、パキシル錠とパキシルCRの半減期には相違がないこと。これは時に精神科医ですら勘違いしている。錯覚していると言うべきか。

ブプロピオンの血中の平均半減期は12時間(8時間から40時間)と言われている。おそらくだが、剤型による差は、さほどないのではないかと思われる。

アメリカでは、ブプロピオンには2つの適応しかない。1つがうつ病で、上記、3剤型のいずれも処方可能である。しかし、季節性感情障害では、XL(延長放出型)のみ適応を認められているようである。これはなんとなく理解できる。

季節性感情障害へのブプロピオンの用法について(アメリカ)
典型的な病型では、うつの徴候が出る前の秋に服薬を始める。最初はブプロピオンXL150mgを朝1回服薬。1週間後、忍容性を考慮し、可能ならXL300mgまで増量する。そうして秋、冬と300mgを維持する。春になると、XL150mg服薬を2週間設けて中止する。(この手法は予防的投与であることがわかる)

余談であるが、この話はアメブロメールで読者の方からの情報であるが、アメリカのうつ病患者が集まる掲示板で、「なぜこうも抗うつ剤が効かないのか?」という話で盛り上がっていたらしい。

その時、神のような実際の精神科医が現れ、「即時放出型や持続放出型ではなく、XLを服薬しなさい?」と言ったらしい。うつ病から浮上できない人は、XL製剤をしっかり飲んでおくのが最も良いんだそうだ。

この神のごとき精神科医の助言だが、実際にはそう簡単にはうまくいかない。しかし、うつ病には即時放出~延長放出型いずれも服薬できるので、剤型を変更するのも一考だと思われる。

アメリカでのうつ病に対する異なる3剤型の投与上限だが、種類によって異なる。

即時放出型(上限450mg)
SR(上限400mg)
XL(上限450mg)


しかし、日本人は欧米人に比べ、忍容性が低いため、300mgを超えて服用した場合、けいれんの副作用が出現しやすいのではないかと思われる。例えば、けいれんの既往がある人、頭部外傷の既往がある人、あるいはアルコール依存症や薬物中毒の人である。おそらく、本邦で認可された際には、上限が300mgになるような気がしている。

参考
ブプロピオンのテーマ