マーガレット・サッチャーとモリッシー | kyupinの日記 気が向けば更新

マーガレット・サッチャーとモリッシー


モードリン・ストリートの最後の夜。ビバ・ヘイト(憎しみ万歳)に収録。モリッシーの最高傑作の1つ。あまり有名ではないが、個人的に大好きな曲である。(視聴だけにしてください。)

2013年4月8日、イギリスの政治家、マーガレット・サッチャー元首相が亡くなった。87歳だったが、彼女の晩年は認知症で療養中だったという。

彼女の家業は食糧雑貨商であり、階級社会のイギリスでは、国政に進出するには困難な境遇だった。しかし父親も市長を務めたほどであり、政治への興味を持つ環境にはあったと思われる。

彼女は子供の頃から非常に優秀で、オックスフォード大学で化学を学び、1947年に卒業。研究者の道に進むが、国政に強い興味を持ち、なんと1950年には保守党から下院議会議員選挙に立候補している。最初の選挙では落選。 1951年、デニス・サッチャー氏と結婚。その後妊娠し、双子(女児と男児)を儲けるが、ちょうどこの時期に法律の勉強をし弁護士の資格を取得している。彼女は大学では化学を専攻していたわけで、真に頭の良い人には理系も文系もないのがよくわかる。

その後、政治家を目指していた彼女は、夫の経済力をバックに遂に1959年、下院議員に初当選を果たした。彼女の政界進出は、実業家の夫の資金援助がなかったら、なしえなかったと思う。 彼女が属した政党は保守党である。イギリスは労働党と保守党の2大政党であり、それまでは労働党が強かった。左寄りの政党は、高福祉、雇用を重視した政策を取るが、経済が非効率になり財政を悪化させ国が弱体化しやすいと思う。

当初、彼女が保守党で初当選を果たした当時、政治家は男性の仕事のイメージが強く、政党内の女性議員は非常に少なかった。しかし保守党は労働党に勝つために、次第に頭角を現したマーガレット・サッチャーを党首に据え選挙を戦ったのであった。

歴史的に、イギリスでは女性で首相まで上り詰めた人はいなかったため、非常にインパクトがある選挙戦だったのが想像される。 サッチャーが首相になり、実行した政策は「小さな政府」であった。小さな政府とは、規制緩和や国有事業の民営化などであろうが、これは多くの国民にとって非常に痛みを伴う。既得権が小さくなるか消滅する上に、リストラで失業者が増加するからである。

サッチャー首相が行った政策は、ニュージーランドのロジャーノミクスや小泉首相の政策と非常に似ており、悪かった部分の結果も似ている。 ニュージーランドは、第二次世界大戦以後、酪農品を中心に輸出が増加、次第に高福祉国家になった。しかし、オイルショック以後、状況は一変し貿易収支は悪化、経済は破綻する。当時のニュージーランド政府は海外からの借金により、建て直しを試みるが救いようがなく、遂に国民1人当たりの負債は最高水準に達した。当時、いったいニュージーランドはいかに苦境を乗り切るか、注意して見ていた。

そこで登場したのが、1984年のデビッド・ロンギのニュージーランド労働党政権である。財務大臣にロジャー・ダグラスを起用、国民の理解は得られなくても、必要と思われる改革を実行した。政府は、変動為替相場への移行、規制緩和・撤廃、補助金制度の撤廃、海外投資の自由化、保護貿易の撤廃などの政策を実施し、投資の増加を促すため法人税の減税を行い、不足する財源確保のため、物品サービス税(日本の消費税)を導入した。社会福祉予算の削減、医療分野への助成金削減など、徹底した歳出削減を行った。また、運輸や郵政事業の改革の際に、国家公務員の大幅な削減を行ったのである。国鉄や郵政でさえ、海外資本への売却を行っている。

その結果、ニュージーランド経済は急速に持ち直し、インフレの抑制に成功、対外債務を解消することができた。しかし、これは小泉改革の悪い結果の部分に似ているが、失業者の増加、倒産件数の増加、貧富差拡大、医療崩壊、犯罪の増加、高等教育の質の低下などが生じた。

オーストラリアとニュージーランドは日本からは同じように見えるが、治安状態はニュージーランドのほうが遥かに悪い。その後、1987年のブラックマンデー以後の経済の悪化など、紆余曲折があったが、それでも現在、世界で最も規制が少なく、国際市場での競争力の向上、サービスの向上などの一定の評価がされている。

ニュージーランドの政策は今も継続中であり、膨大な債務の解消など、経済を立て直した点では、日本より遥かにうまく行っている。小泉首相の政策は国の経済を立て直すまでは至らず、日本の現在の状況がある。 現在の安倍内閣も小さな政府を目標としている(公共事業の増加など小さくない部分もあるが)。

しかし、日本ではニュージーランドが行ったほどの思い切った改革は行えそうにない。国内事業を売却しようとすれば、中国に買われかねないからである。安部内閣は応援したいが、前途多難といえる。実際、パナソニックなどの国内企業の苦境から、リストラされた技術者が韓国などのサムスンに移り、結局、自分の首を絞める結果になっている。その他、元サンヨーの白物家電は中国資本に移っている。 少なくとも、日銀などを中止とした経済政策だけで、デフレと膨大な債務を解消することは難しいように見える。うまく行かなかった時、日本がいかなる事態になるのかは、ロジャーノミクスやサッチャリズムの結果から想像がつく。

アベノミクスは明らかにロジャーノミクスやレーガノミクスを意識したネーミングだが、うまくいくかどうかは、今の時点ではわからないと思う。 サッチャー首相以前のイギリスは、英国病と言われ、落日はもう登ることはないなどと言われていた。それは国営企業が多く極めて非効率な経済環境だったからである。当時、あのロールスロイスですら、国営企業であった。 逆に言えば、非効率な経済社会は無駄な人員を抱え込み、また結果的に企業内のニッチの仕事が増え、社内であまり仕事をしていない人が多い社会でもある。この辺りに、今の日本社会で特に軽い広汎性発達障害の人たちの居場所がなくなった要因がある。

彼女の経済改革は、彼女の父親の教えの「質素倹約」「自己責任・自助努力」の精神から来る。つまり、貧しくなるのは努力が足りない本人の責任も大きいという思想である。 彼女の経済政策のため、イギリスは英国病から脱したものの、さまざまな副作用をもたらした。それは失業者の増加や貧富の差の増大である。スリムになった社会は、十分に働けない人に居場所はない。 彼女の死後、国葬で弔われたのにもかかわらず、大喜びしている国民も少なくないのは、彼女によって、失業者になるなど、没落した国民も多いからである。

彼女へのネーミング「鉄の女」であるが、ある時、労働党がソ連に媚びすぎていると批判した際に、ソ連の国防省機関紙「クラスナーヤ・ズヴェーズダ」がサッチャーを鉄の女と呼び非難したことから来る。しかし、彼女は「鉄の女」の呼び名を「なんだか強そうじゃない!」と気に入ったという。

彼女が首相に就いていた期間は、1979年5月4日~1990年11月28日と10年以上に及ぶ。この期間にすっぽり入ってしまう期間に活動したのが、ザ・スミスである。(1982年 – 1987年)

ザ・スミスと言うバンド名は、日本風に言えば、「中川家」という感じだろうが、中川家は実際に中川家だが、ザ・スミスはモリッシーや他のメンバーと無関係である。これは諸説あるが、モリッシーだけに、当時、洒落て長いネーミングのバンド「スパンダー・バレエ」などを揶揄する心理から来ているような気がする。

モリッシーは、もちろんサッチャーが大嫌いである。彼女のことはインタビューでも散々扱き下ろしている上、「マーガレット・オン・ザ・ギロチン」という楽曲まで創っている。この楽曲は、ザ・スミス解散後、最初のソロアルバム「ビバ・ヘイト」に収録されている。(アルバムは良く出来ているが、この曲自体はたいしたものではない)

マスコミへのインタビューでは、数々のサッチャーへの暴言がみられる。モリッシーは、子供の頃、自閉症だったと言われているが、確かに、彼の作詞やインタビュー内容、また思想、生き方に、自閉症スペクトラムに生じやすい特性が散見される。

例えば、性同一性障害、慢性的な希死念慮などであるが、インタビューで発言した何気ない言動にもそれが推測できる。 サッチャーについて彼の発言から、

僕は「英国の政治を救う唯一の方法はマーガレット・サッチャーの暗殺だ」と言った。すると、イギリスじゅうのプレスが電話してきて、もしスミスのファンがマギーを撃ったらどうするって言うんだ。「そうね、間違いなくその娘と結婚するさ!」


ブライトン爆弾事件の悲劇は、サッチャーがかすり傷ひとつ負わず、逃げのびたってことだ。悲劇は彼女がまだ生きていることだよ。まあ、だけどいい気分だね。IRAは初めて正しい目標を攻撃したよ。事件の後、マギーはテレビに出て、爆弾を使ったことを非難した。爆弾の力を誰よりも信じているその当人がだ。


彼女こそ、世界政治でのコミュニケーションの手段はそれだけだって主張した人間なんだ。貴婦人面して、テロリストの爆弾なんてちゃんちゃらおかしいぜ。

保守党が作った失業者階級(サッチャーのこと)

などである。また自閉症スペクトラムを推測できる言動は数多くある。これは現代社会の患者さんからも聴くことができるものもありとても参考になる。彼の発言から、

普通の状況なら僕は生き残れない。勤めはできない。朝8時にベッドから出られない。隣に住んでいるやつと礼儀正しい会話が出来ない。

僕はすごく隔絶した生活をしている。ほとんど全く人とかかわらない。それこそ望ましい状況なんだ。僕にとっては、プライバシーが生命維持装置代わりだ。

僕はずっと、自分がまるっきり魅力のない醜男だと感じていたし、そう思っている人は他にも大勢いるだろう。 若い頃、幸せだったなんて1度もないから、歳をとってもヒステリックなほど不幸せになることはないだろ。

年に1度は泣き出して止まらないことがある。 僕はまだ自殺衝動と深い絶望に苦しめられている。

体育だけは休みたくなかった。知的活動らしきものはあれだけでね。だけど、他の教科はたいてい休んでいた。たいてい病気だったんだ。主にうつ病でね。診断書なんて必要なかったよ。一目見れば、それで十分だったから。

青春なんてなかった。6歳から、そのまま46歳になったんだ。実際滅入ったよ。ディスコで過ごすクリスマスの晩とか、そんなものは何ひとつなかったんだから。

ずっと図書館員になりたいと思っていた。完璧な生活に思えたんだ。孤独、絶対的静寂、天井の高い、薄暗い図書館。

僕がどんなに孤独にしていたか、特に21、22、23とね。とても言葉にできない。

生命を奪うってことを真剣に考えていた。僕には自殺なんて劇的でも面白くもないだってわかっていた。自殺してしまう人というのは、人生の最後の数ヶ月、数週間、何時間で初めてそれに気付いたんじゃない。みんなずっとそれを知っているんだ。実行する何年も前に、既に自殺を選んでしまっているんだ。ある意味、僕もだけどね。

これらを見れば、なぜモリッシーが男女問わず人気があるのかよくわかる。共感できる人が多いためである。もしスミスがモリッシーの自殺で終焉していたら、ファンに自殺者が続出していたと思う。モリッシーは自殺しないでよかった。

現在、彼はイギリスを離れサンフランシスコに在住している。 また、モリッシーは元々男尊女卑の思想があるようで、その点でもサッチャーは気に入らなかったのではないかと思う。また、モリッシーはレイシスト的な発言も多い。これらの言動に良く表れている。

僕には、レゲエは世界で1番人種差別的な音楽に聴こえる。黒人優位を盛大に賛美しているだけなんだもの。

マドンナは全てを馬鹿馬鹿しく不愉快なものに変えてしまう。絶望的にまで女性的。マドンナほど、組織売春に近いものはないね。

もしプリンスがウィガン出身だったら、今頃、虐殺されてるよ。

スティービー・ワンダーは大嫌いだ。トップ40に入っているレコードはみんな嫌いだ。

ダイアナ・ロス、ホィットニー・ヒューストン、下劣な極みだと思う。

また、モリッシーは王室や貴族が嫌いで暴言も多い(ザ・クイーン・イズ・デッドなど)。そのような心理から、左寄りかと思うかもしれないが、彼のインタビュー発言や楽曲から、実は右寄りの思想を持っていることがわかる。これはモリッシーが誤解されている点だと思う。


The national front disco 国粋主義的なテーマの楽曲。当然ながら、人種差別に反対する人たちから激しい攻撃を受けた。モリッシーは右翼、左翼いずれからも批判対象になった。

これは、日本のネトウヨの人々が、彼らの境遇から左寄りになってもおかしくないのに、右寄りの思想を持ち、一方、皇室に敬意などまるでないことに合い通じるものがある。 ネトウヨのこれらの思想や、彼らの韓国、中国への激しい誹謗中傷は、平均的な日本人の感覚とは少しずれている。(もし、日本人がああいう人ばかりだと、韓国ドラマや韓国のミュージシャンがあれほど日本で流行るわけはないと言えよう)

これらは現代社会の、自閉症スペクトラムの人たちに、全てではないが、よく見られる精神所見だと思う。また、この所見は同じ自閉症スペクトラムの中でも、女性には目立たないかほとんどない所見である。これは女性と言うことに意味がありそうである。女性は男尊女卑になりようがないことも関係しているのではないかと思う。

以下、モリッシーのインタビューでの言葉。

僕は王族を軽蔑している。昔からずっと軽蔑していた。ナンセンスなおとぎ話だよ。暖房すら買えないで凍死者が毎日出るご時世に、あんなのが存在してること自体ね。

まるで、不滅の存在じゃないか! 王族のために使っている金は燃やしているようなもんだ。

王族を支持するなんて人には、これまで会ったことがない。信じてほしいけど、これでも探したんだよ。わかったよ、確かにハートルプールにいた老いぼれがエドワード王子の写真を壁に貼ってたよ。

だけど、なんとかして王様を取り除きたいと思っている奴なんか列作ってるぜ。


モリッシーの言葉は、なんとなく可笑しいというか、面白いものが多い。彼はかなり過激だが、ユーモアがあると思うよ。 最近、テレビで放映されている厳かなサッチャーの国葬と、一方、大喜びする国民の映像はこのような背景があるからなのである。

参考 BGMをスミスやモリッシーにしたいが・・