盆、正月、ゴールデンウイーク | kyupinの日記 気が向けば更新

盆、正月、ゴールデンウイーク

昔の精神病院は、盆と正月はかなりの数の入院患者が外泊するため、病棟はいくらか閑散とする傾向があった。15~20%かそれ以上、外泊していたと思う。

ところが、近年は入院患者さんの高齢化が著しく、また家庭も両親が亡くなっているか、老人ホームや病院に長期入院しているほどの高齢となっているため帰るに帰れない。家も既になくなっているか、兄弟、姉妹が住んでいるため、本人を良く知らない人たちが多いため馴染めないのである。

病識がなく「独りでアパートに住む」などという人がいるが、現代社会ではそのレベルにある人は既にアパートかグループホームに退院している。現実検討能力が保たれていないため、そういう希望が出ると言える。

最近では、もし20~30年前なら、アパートなどに退院できるが、今の年齢だと難しいと言う人も多い。例えばもう90歳近い統合失調症の人がアパートに退院するのは困難である。それは身体的老化によるところが大きい。

20~30年前は、グループホームや共同住居などが今ほど普及していなかったし、アパートなども精神障害者へ偏見のために容易には借りることができなかった。今はアパートは築年数が長いものは「がら空き」のところも稀ではなく、比較的安価で借りられるようになった。これは日本の少子化や働ける人の減少と無関係ではない。

また、食事の宅配が発達したことも大きい。今は種々の業者がアパートまで食事を配達してれる。また病状の重さにも関係するが、ヘルパーさんがアパートに来て掃除などもしてくれるサービスも受けることができる。

日本は人口比の精神科入院患者が先進国よりずっと多いが、昔は精神障害者のための社会インフラも整備できていなかったし、「偏見」の問題もあり、それらを言及しないで議論するのは間違っていると思う。(参考

実際、精神障害者の場合、かつてはアパートに退院させようにも、誰もそれこそ家族すら「保証人にならない」と言うケースも稀ではなかった。実際、病状や服薬していることもあり、寝タバコなどで火事を起こす確率は健康な人と同じではなく、万一のことがあったら責任は持てないと言う理由は理解できるものであった。

また、当時まだPSW(精神保健福祉士)が国家資格になっておらず、そのようなスタッフがあまりいなかったことも大きい。その点で患者さんの社会復帰の点でも、精神科におけるPSWの役割、貢献は大である。


今はかつては退院が可能であった人たちが、退院できないほどの高齢になり、行くところがないために病院にいると言った感じである。

かつて特別養護老人ホームなどの入所判定会議に毎月出席していた時期がある(8年間くらい)。僕は統合失調症や重い躁うつ病でも病状が軽くなっている人は、高齢になれば老人ホームでも生活できると考えていたため(今もそう思うが)、時々入所判定会議にエントリさせていた。

その際に必ず問題になるのが「果たしてそのような人を入所させた場合、事故が起こらないか?」ということだった。また、事故が起こらなくても「周囲の老人とその家族の理解が得られるか?」といったこともある。当時は今より「老人ホームに入所させること」に家族に後ろめたい感情があったため、スティグマも関係して複雑な感情が生じていたのである。

一般に高齢になり認知症が出た場合、元々精神病ではない人でも暴力行為が起こりうる。これは日常、テレビや新聞を見ていてもそういう事件が時々起こっている。

ほぼ、寛解状態ないし安定している人で暴力性がない人であれば、普通の老人とたいして変わりがない。僕の経験では、入所判定会議では施設長ないしそれに準じる人も出席しているため、彼らの意見なども聞くことができた。精神障害者の入所の容認度は、その施設長の考え方が影響していたように思う。

また、その許容するかどうかは地方によっても変わると思う。スティグマには地域差があるからである。今は、一般の人の入所ですら都市部では何百人待ちということも稀ではなく、精神病の人はそのまま精神病院で面倒を診てほしいといった時代である。

僕は自分の患者さんを老人ホームに入所させた後、彼らに老人ホームの居心地を聞きにいったことがある。というより、必ず意見や感想を聞きに行くようにしていた。彼らの感想は意外だった。

彼らによると、精神病院の方が老人ホームより遥かに居心地が良いと言うのである。精神病院のほうが、ずっと日常生活のサービスが良いんだそうである。これはたぶん精神病院の方が正看護師及び准看護師の比率が高く、つまりは精神疾患に対する専門性が高いためだと理解した。

メンタルヘルスの人はやはりそれに特化した場所の方が生活しやすいのであろう。

ある患者さんは、「ぜひ精神病院に帰してほしい」と言ったが、判定会議で頼みこんでやっと入所させたものを、自分の意向で戻すのは道義的にも難しい。それ以降、もう少し重症度が高く、身体的にも車椅子使用など、本人もあまり苦情がないようなタイプの人に限るようにした。その後、時代が変わり現在に至るといったところである。

そのようなことを考えていると、先日のコメント欄の「東京が住みやすい」と言う意見は、大都会の「周囲の人との繋がりの希薄さ」もいくらか関係しているように思われる。

70歳半ばくらいの微妙な年齢の統合失調症の人でグループホームも可能と思われる人に入所を勧めると、本人から「私は歳をとって心配なので病院に住まわせてください」などと言われる。これは彼らが健康面で自信がないことと、長年病院に住んでいて生活の激変を望まないことも関係している。精神病の人は新しい環境に慣れにくい。これは疾患性でもある。

高齢な入院患者さんで、兄弟、姉妹の家に外泊できる人は幸せである。


これは兄弟だけでなく、その家族の理解がないと難しい。このように理解が得られるのは、過去の武勇伝の規模も関係なくはないが、その後、継続的に外泊していたかどうかや、その人の人柄にもよる。

参考
日本の精神疾患の患者数
クラーク勧告
リスパダールコンスタとネオペリドール&フルデカシン