境界型人格障害と抗精神病薬、抗うつ剤、抗けいれん薬 | kyupinの日記 気が向けば更新

境界型人格障害と抗精神病薬、抗うつ剤、抗けいれん薬

2011年に発表された海外の論文の中に、境界型人格障害の症状に対する抗精神病薬、抗うつ剤、抗けいれん薬の3タイプの向精神薬の効果についての解析があった。

境界型人格障害は、一般人の有病率は4%と報告されており、主な症状は、「気分の不安定さ」「衝動的行動の制御困難」「認知・知覚に関する症状」である。この3症状に対する上記3タイプの向精神薬による効果(症状の変化)を調査したものである。(厳密には1966年~2010年の多くの論文を検索して解析したもの)。

ここで、なぜ気分安定化薬ではないかと言うと、対照になった研究の気分安定化薬は抗けいれん薬だけだったため。つまりリーマスが含まれていなかったようである。

その結果だが、

1、抗けいれん薬と抗精神病薬は、「気分の不安定さ」「衝動的行動の制御困難」に対して有効。

2、抗精神病薬は更に「認知・知覚に関する症状」にも有効。

3、抗うつ剤は、「気分の不安定さ」以外の症状には効果がみられなかった。


いずれのカテゴリーの薬物も中断率はプラセボと有意差がなかったらしい。

結論は、気分の不安定さには3つのカテゴリーのいずれの薬剤も有効であるものの、抗けいれん薬が最も効果があり、「衝動的行動の制御」には抗けいれん薬が最も効果的で、抗うつ剤は無効であった。また「認知・知覚に関する症状」には抗精神病薬のみ効果があることがわかった。

かなり長い期間の論文をまとめてあるため、ここで言う抗けいれん薬の大半は、デパケンRとテグレトールと思われる。また、近年の論文にはラミクタールやトピナなどの新規抗てんかん薬も含まれるのかもしれない。

境界型人格障害は、抗うつ剤があまり好ましくないのは、双極性障害に対して抗うつ剤が不安定化を招くことがあるのに似ている。(僕は双極性障害にも抗うつ剤を併用することがある精神科医であるが)。

古い論文があるものの、「認知・知覚に関する症状」の抗精神病薬の有用性は、セロクエル、ジプレキサ、クロザリル、エビリファイなど新しいタイプの抗精神病薬の開発も貢献していると思われる。

抗けいれん薬が特に症状が複雑な境界型人格障害に有用性が高いことは、臨床経験と一致するものである。

この論文は、境界型人格障害の患者さんは複雑な多剤併用療法になりやすいことを裏付けるものだと思う。

また、この結果は抗うつ剤をメインにするとかえって不安定になりやすいことを示唆しており、主剤をどのカテゴリーにするとトータルの薬物が少なくて済むか、参考になるものである。

参考
デパケンRラミクタールトピナのテーマ参照。