患者さんに離婚を勧めてはならない | kyupinの日記 気が向けば更新

患者さんに離婚を勧めてはならない

まだ研修医のことだが、オーベンから「患者さんに離婚を勧めてはならない」と言われたことがあった。この話を聴いたのは、たまたまある女性の精神科医が患者さんに離婚を勧めたと言う話が出てきた時である。

彼は「若くない独身女性精神科医が離婚を患者に勧めるのは結婚したことがないからだろう」などと話していた。つまり患者さんが結婚しているという環境があまり良くわかっていないのと、独身の自分は気楽なのになぜそんな苦労をしているの?という疑問が湧くので、そのようなアドバイスになるのかもしれないと言う。

つまり独りよがりな対応なのである。

また、「精神科病院に受診して、そこのドクターから離婚を勧められた」というのは洒落にならないと言う。精神科医は患者さんの調子の悪い時に、重大な決断を患者さんにさせるのは避けるという定石もあるからだ。

まあ、当時は「家」の考え方が今と少し違う上に、離婚後の世間の見方も今と異なっていたので、そのような助言を避けるというのは十分に合理性があったと思う。(逆に言えば、現在「離婚」はかつてほど重大ではないと思う。実際、離活という言葉があるほどである。)

ところで、「行列のできる法律相談所」という日本テレビ系の番組があるが、向かって左から2番目に住田裕子さんという女性の弁護士がレギュラーで出演している(北村弁護士の隣)。最初の頃はレギュラー回答者の中で女性は彼女だけであった。

彼女は法律的に離婚できるかどうかの争いの場合、ほとんど「離婚できない。もう一度夫婦で話し合うべき」という回答をしていたのには感心した。首尾一貫しており、例外などほとんどなかったからである。

実は彼女の回答こそ、僕のオーベンがかつて言っていたことと同様、「結婚している女性による」家庭的なアドバイスなのである。つまりクラシックな回答と言える。

僕は未だかつて、たぶん偶然もあるだろうが、離婚を勧めたことは1度もない。オーベンがそういう風に言っていたからとは必ずしも言えないが、そういう場面がほとんどなかったこともある。(実際、どうみても近い将来、離婚になりそうな家庭もある。例えばDVなど。)

結局は離婚をするかどうかは本人が決めることだが、精神症状が深く関しているような状況では、精神科医は少しモラトリアムを設け積極的には離婚を勧めるべきではないと考えている。

それは離婚に限らず、大学を退学すること、会社を退職することなども同様である。その重大さが本人はよくわかっていないからである。

参考
非定型精神病の人の彼氏