昼の薬、夜の薬 | kyupinの日記 気が向けば更新

昼の薬、夜の薬

研修医の頃、オーベン(指導医)がある入院患者さんを診察しているのを横で見ていた。ベッドサイドだったので、立ち話を聞いている感じである。

オーベンが「昼の薬」と言っているので、昼食後に飲む薬だと思っていた。ところが、彼の言う「昼の薬」とは、朝・昼・夕、3回の薬のことを言っているようなのである。ということは、「夜の薬」はもちろん就前の薬である。僕は尋ねた。

昼の薬って、朝も夕もそう言うんですね?

オーベンは、

精神科の薬は朝も夕もないから。


とあっさりしたものだった。精神科の薬は半減期が長いものが多いので、いつ飲むかはあまり関係ないらしい。そういう大雑把な感覚であった。過去ログでいつ飲むかはあまり興味がないとか、自分の薬は1日量を書くようにしてほしいといったエントリをアップしている。(1日の服薬の仕方について

しかし患者さんは真面目なので、昼の薬というと正午頃に飲む薬と錯覚する。だから診察時には「昼の薬」と言う言葉はあまり使わないようにしている。(注意:「昼の薬」についてだが、すべての精神科医がそんな風に思っているわけではない)

近年、エビリファイのような朝1回服用推奨の薬も発売されている。これは不眠の副作用があるので、少しでもそれを避けたいためと思われる。しかし、エビリファイは夕方や就前に飲んでも問題ない人が随分いる。

また、エビリファイは朝1回服用でも不眠になる人は十分に不眠になるので、朝1回推奨が良いかどうかも怪しいものだと思う。エビリファイは血中半減期が279時間と、とてつもなく長い薬なのである。(エビリファイ及び活性代謝物)服薬し始めて時間が経てば、血中濃度的には朝1回であろうが、夜1回であろうがほとんど差がないはずだ。

特に抗精神病薬の場合、本当に「半減期が短い薬は分けて飲んだ方が良い」のかは疑わしい。なぜなら、1回にまとめた方が薬物としてインパクトがあるようにも見えるからである。

近年の非定型抗精神病薬でルーズに結合する薬物は、何回かに分けてもたいした仕事はしていないことがわかっている。過去ログから、

抗精神病薬は、D2レセプターの親和性のあり方について、4種類のタイプがある。
リスパダール  強く・持続的
ジプレキサ   弱く・持続的
ルーラン    強く・一時的
セロクエル   弱く・一時的
(ロナセンはリスパダール系であろう)


セロクエルなんて、いったい何なんだ?といった感じだ。セロクエルは半減期が短いため、発売当初、数回に分け投与することを推奨されていた。ルーランも数回に分けた方が良いように言われていたが、この2つは僕はしばしば1日1回投与している。それも寝る前に。

数回に分けてインパクトがなくなるより、1日1回D2レセプターにダンクシュートを決める方が良いという感じである。どうせ、普段はたいした仕事はしていないからである。(1日にちょっとだけ仕事をすることに非常に意味がある)。