NTT株を100株以上買って放火 | kyupinの日記 気が向けば更新

NTT株を100株以上買って放火

この事件は僕がまだ若い頃の話。

あるお婆ちゃんが、NTT株を100株以上買い、大変な値下がりをしたため、腹いせに放火したと言う小さな新聞記事を見たことがあった。当時、新聞のベタ記事では、自業自得というか、同情的とは程遠い書き方だった。

そのお婆ちゃんの放火だが、そのために焼死者が出るとかそのレベルの放火ではなかったが、その人がどのような裁判を受け、どのような判決になり、その際に弁護士がいかなる弁護したかは知らない。テレビのワイドショーでは面白半分に取り上げられたかもしれないが、日常の些細な事件だったのである。

普通、放火では、人が住んでいる建物に放火する場合と、倉庫のように誰も住んでいない建物に放火するのでは全く罪が違う。もちろん前者の方が罪が重いのである。

NTT株はかつては政府が全株を持っていたが、民営化されたこともありバブルの始まった当時の1986年11月、119万円で初回放出された。

この時、一般の投資家たちから値上がり必至と思われていたため、人気が集中しハガキで応募しないと1株も買えなかったような記憶がある。僕は当時はまだ株を買ったことがなく、日経新聞で読んだ範囲の話だ。

NTT株は初日はストップ高になり翌日もそうだった。買おうと思えば誰でも必ず買えたのは3日目の160万円台だった。その後順調に値上がりし310万円台まで到達している。

実は面白い話があり、最初、ハガキで申し込まないとNTT株が買えないはずだったのに、いざ払い込みになると、怖くなり辞退した人が相当にいたらしい。従って、証券会社は買い手のいない株の処分のために、資産家にお願いの電話をかけて廻っていたようである。

僕の知り合いはそういう電話がかかってきて、119万で10株以上買わされたと言う。結果的にはボロ儲けである。一般の人はやっと1株買えるか買えないかなのに、その知り合いはハガキを出すこともなく、一度に10株以上、初回放出株手に入れている。この経緯はまさに資本主義を象徴している。

NTT株は大型株とは思えないほど軽い値動きで2倍以上になったので、ひょっとしたら1000万まで値上がりするのではないか?と言う噂だった。300万円頃の話だ。

今から考えると、当時のNTT株は空前の時価総額に膨れ上がっており、バブルには間違いなかった。普通、株式会社は時価総額こそ、その会社の価値を表わしているといえる。日本で最も時価総額が大きい会社はトヨタ自動車で、現在の暴落した状況でも約10兆円である。ちなみに現在のNTTは5兆5000億円くらい。任天堂や本田自動車が4兆円程度である。

トヨタの時価総額10兆円というのはなんだかちょっと安いような感覚はある。トヨタは急激な世界的金融危機もあり大赤字を出すという話だが、ごく最近まで年間の営業キャッシュフローが3兆円以上もあったのである。また、これまでの蓄積が大きく、世界の自動車会社の中では極めて好財務である。(トヨタを買い推奨しているわけではない。そういうブログではないし)

このようなことを考慮すると、NTTのような超大型株の株価が容易に2倍、3倍にはなりえないのがわかる。バブルやインフレが再来すれば話は違うけどね。(時価総額では、既にNTTはNTTドコモに抜かれている。)

NTT株はその後、第二回放出が1987年11月に255万円で、第三回放出が1988年10月に190万円で実施された。

最初のお婆ちゃんの放火事件だが、たぶん1987年11月の255万円前後で大量に買った後の暴落時に起こったと考えられ、1988年~1989年頃の話だと思われる。

この事件、情報は少ないが、どうも精神疾患と関係が深そうに思われるのよね。

彼女の放火事件はおそらく大損失によるうつ状態が関与している。だから、彼女の弁護士は真剣に裁判に望むなら精神鑑定を依頼すべきだったと思う(実際に依頼された弁護士がそうしたかどうかは知らない)。

重要な点は、この事件のトータルの精神状態の推移である。まず、このお婆ちゃんの家庭は相当な資産家であること。100株と言うと、250万円でも2億5000万円になる。また、値下がりしていても相当な資産が残っているのである(信用取引だったとかそういうことは書いていなかったし、高齢なのでたぶん現物だったと思われる。もう売却してしまったなどとは書かれてなかった。あのような面白半分の記事なら、信用取引であれば必ずそう書くような気がする)

この事件は、実はNTT株を100株も買ったことから始まっている。

つまり精神科医(鑑定医)は、「100株も一度に買ったこと」の躁病的色彩を考慮するのである。

そういう文脈では、その後の大損失もあり、うつ転して放火を起こしたという可能性は否定できない。それもあの年齢だと、女性でもあり非定型精神病の要素が混入し、事件当時、亜昏迷や躁うつ混合状態だった可能性もある。放火事件はそのような精神状態ではあっておかしくはない。

結局、これは腹いせとか、一般世論のザマミロ感覚ではなく、もう少しサイエンスで考えるべきで、またその人にとって適切な処遇をすべきなのである。

このお婆ちゃんは、どうも拘置所内で精神症状が自然回復し、しかも法律家が話してみて全く異常な感じがしないので、普通に裁判を受け、普通に有罪になったような気がする。

うつ状態になると、一般人が思っている以上にout of controlになるのは、医師、判事、弁護士の自殺者が稀ではないことを見てもわかる。

あのお婆ちゃんが本当に上に書いた精神状態であれば、たぶん心神耗弱を示唆する鑑定書が提出され、有罪であったとしてもかなり軽い判決が下されたはずだ。人も亡くなっていないし。(もちろん法律家がそれを判断するわけであるが)