FM-NHKとクラシック | kyupinの日記 気が向けば更新

FM-NHKとクラシック

昔のFM-NHKはクラシックばかりやっていて、いわゆる庶民的なポップスや洋楽の番組は少なかった。AMラジオの番組とはかなり異なっていたのである。

当時、まだ民放のNHKは大都市にしかなく、FM-NHKの洋楽番組はとりわけ見逃せないものであった。AMとFMの音質の差は段違いだったからである。当時、NHKの洋楽のDJはまだ若き渋谷陽一さんが担当していた。(今は死語になったが、FMなどの優良な音源を録音することは、エア・チェックと呼ばれていた)

僕は当時、NHKとはいえ、FMがこうもクラシックの番組しか組まないことが理解できなかった。あのクラシックを楽しみにしている人など周りにほとんどいなかったからである。中学や高校の友人の間でも、あのFMラジオの放送編成はおかしいという結論であった。誰も聴いていないようなものをなぜあれだけ時間を取って放送しているんだ?といったところである。

あれは今考えると、やはりコスト感覚ゼロの賜物だったような気がする。CMがない公共の放送であるとはいえ、なるだけ視聴者が多くなるものを優先して放送すべきだ。その証拠に、現在はNHKでさえ年末の紅白の視聴率を気にしている。

ところが、医学部に入学した時、カルチャーショックを受けるのである。

僕が大学に入学し、友人に音楽の趣味を聞いたところ、クラシックの人があまりにも多いことを発見。クラシックの住人はこんなところにいたのか?といった感じで、長年のFM-NHKの謎が解けた瞬間であった。NHKの中の人たちはたぶんクラシックファンが多いのである。

そうして、突然、僕の方が異端になったのであった。

僕の比較的親しい友人は洋楽も聴いていたが、親しい友人と言うより、そういう風な友人がやはり集まるとも言えた。

しかし僕のとりわけ親しい友人は完全無欠のクラシック派であり、クラシックのレコードしか買わなかった。ある日、彼の下宿に行ってみると、大音量でクラシックのレコードをかけ、しかも一心不乱にタクトを振っていた。部屋の中は電燈もつけておらず真っ暗である。僕が部屋に入ってきたのも気付かない。あれは今考えると、ある種の恍惚状態だったと思う。やはり、クラシックの人はどこか変わっていると思った。(実際、彼はタクトを振っている時に泥棒に入られたことがあったらしい)

この友人だが、今は都内で開業しており、特に精神疾患ということはない。単に変わり者というだけである。(注;精神科医ではない。彼になんとかロックを聴かせようとする涙の物語はいつかアップしたい。)

また、CDが出始めの頃、膨大なクラシックのレコードを蒐集していた医師が新聞か何かに、今まで集めたレコードの意味と価値がなくなることに対し訴訟できないかを聞くような質問がみられた。こんなことを本気で考えているとしたら、この人も相当に変わっていると思った。

僕の友人の間では、今ではアナログレコードが音源としては最も面白いという結論になっている。アナログレコードには、CDにはないものが存在している。それでもCDを買うのは利便性が良いからである。(今僕は過去のレコードは持っているものの未だに聴ける環境がない)

当時、僕の部屋には既にロック喫茶が開けるほどのレコードがあったが、誰もが知っているような有名なレコードがなかったりするので、癖のあるタイプといえた。クイーンやイーグルスなんて全然なかったからである。

クイーンは、当初、世界的評価が低く、単に大学生のおぼっちゃんバンドくらいに思われていた。とりわけ人気があったのは、まさに日本だったのである。商業的に日本だけウケるとか、あるいは逆に世界的には成功しているのに日本ではさっぱり売れないという現象は洋楽の世界では時々ある。

先日のエントリで書いた、カーズなどはまさにそんな感じだ。ダイアー・ストレーツ、トムペティ&ハートブレイカーズなどもそのタイプだと思う。トムペティ&ハートブレイカーズは日本のウィキペディアにすら記事が存在しない。彼らのような素晴らしいバンドでも日本では人気がないということだろう。ところで、トムペティは若い頃より今の方がずっとカッコよいと思う。僕はこのバンドのDVDもいくつか持っている。

過去ログに出てくる脳神経外科の友人は洋楽派であったが、僕と好みがほとんどかぶっていなかった(参考)。キッスとかそういう好みだったからである。キッスのようにいかにも中学生が聴きそうなバンドには興味がなかった。彼とはポリスやレッド・ツェッペリンだけ趣味が一致していた。レッド・ツェッペリンもなんだか高校生好みのバンドであって、なんだかこのあたりのヒエラルキー的な思考パターンが今考えるとガキっぽい。大学生はまだまだガキなのである。

僕はやがて、キンクス、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドなども聴くようになったが、当時、医学部でヴェルヴェット・アンダーグラウンドを知っている人なんていなかった。だんだんマイナーなものを聞く様になったのである。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのデビューアルバム、「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ」は後世に残るような偉大な作品。(このエントリを見てうっかり買わないように。普通の人はがっかりすると思う。)


Heroin(The Velvet Underground)

ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ

1、日曜の朝 - Sunday Morning
2、僕は待ち人 - I'm Waiting for the Man
3、宿命の女 - Femme Fatale
4、毛皮のヴィーナス - Venus in Furs
5、ラン・ラン・ラン - Run Run Run
6、オール・トゥモロウズ・パーティー - All Tomorrow's Parties
7、ヘロイン - Heroin
8、もう一度彼女が行くところ - There She Goes Again
9、ユア・ミラー - I'll Be Your Mirror
10、黒い天使の死の歌 - The Black Angel's Death Song
11、ヨーロピアン・サン - European Son


ほとんどの楽曲はルー・リードによる。上のうち、All Tomorrow's Parties とヘロインが好きだ。特に前者はいろいろなミュージシャンにもカバーされている名曲。ニコという女性シンガーが一部の曲でボーカルを務めているが、ニコのアルバム、チェルシー・ガールも買ってみたら、思ったより良かった記憶がある。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドで最も好きな楽曲は、サードアルバムに収録されているWhat goes onである。


What goes on(The Velvet underground)

僕の部屋にかなりの洋楽レコードがあるのは間違いないので、ロックバンドを組んでいる(コピーをやっているだけだと思う)友人が時々レコードを借りに来ていた。当時、ロック喫茶を開こうと思っていたわけではなく、興味があって、どんどん深い森に分け入っていったという感じだった。

今の僕の精神科医としての治療スタイルと、同じといえば同じなのである。

参考
友、遠方より来るあり(続き)のコメント欄