考察、「ジェネリックの都市伝説」 | kyupinの日記 気が向けば更新

考察、「ジェネリックの都市伝説」

ジェネリックと先発品は何が違うかだが、主成分的にはたぶん同じものであろう。もし違うとしたら、それは大変なことだ。

ジェネリックでは、錠剤として製品化する際、形状の硬度を高めるとか安定させるために補強する薬物が微妙に違っているのだと思う。表面のコーティングの成分が違っていることもあるだろう。そんなこともあり、同じ主成分でありながら、血中濃度の立ち上がり方や、ピークまでに至る時間が微妙に違っている場合がある。場合によれば、同じ量を処方しても血中濃度が同じでないことすらありえる。特に口腔内崩壊錠のようなワザを要する薬物については全く同等に作ることは難しいのではないかと思う。結局、主成分以外の物質の相違から、全体の薬理活性が微妙に異なっている可能性は否定できないのである。

こういうことを書いていると、どうしてもいくつかの興味深い話を思い出してしまう。

① もう15年以上前であるが、ある覚醒剤中毒のおっちゃんの治療をしていた。彼はよく覚醒剤の話を僕にしてくれたが、特に興味深いと思ったことがあった。彼は覚醒剤の売人がインチキをして混ぜ物をし、より利益を上げることがあると話していた。彼が言うには、その混ぜ物とは「味の素」なのだという。これは幻覚の話をしている時に偶然出てきたのであるが、彼によれば、この味の素入りの覚醒剤を使うとより副作用が出やすいという。僕は覚醒剤だけで十分に副作用があると思ったのだが、彼に言わせると「味の素入りの覚醒剤は純正品より幻覚が出やすい」と言うのだ(この信憑性は不明)。余談だが、そのおっちゃんに覚醒剤を溶解する水をどのように調達するか聴いたことがあった。彼によれば、やかんに水をいれて沸騰させそのやかんの蓋についた水を注射器に吸い取って使えば大丈夫なのだという。「おっちゃん、頭いいなぁ」と僕は感嘆して言った。  

② シンナー嗜癖は、最近は激減しているが、かつて1960年台にはかなりシンナー中毒が多かったのである。僕が子供の頃、生まれて初めて大阪に行ったとき(1970年大阪万博の頃)、駅周辺でビニール袋を持って座り込みまどろんでいる若者の多さに驚いたことがある。今はこの光景もなくなってしまったが。シンナーはノルマルヘキサンとトルエンが主材料になっており、ノルマルヘキサンは主に末梢神経を害し、トルエンは中枢神経に親和性があり脳を次第に溶かす感じだといえる。シンナーのうち、純粋トルエンは高級品であり、「純トロ」などと呼ばれる。名前がマグロみたいで笑えるが。これらには時に不純物としてメタノールなどが混入していることがあり、そのために失明したり死亡することもあるらしい。これら、シンナーとトルエンはいわゆるラリルことが目的であって、幻覚などを見ることがそう多くはないと言う。しかし、これに更に不純物が混じっている「プラスチックボンド」は幻覚がかなり出現するらしい。これらシンナーの有機溶剤の後遺症であるが、末梢神経をやられると、靴下を履く部分がジンジン痺れたり、感覚が麻痺したようになる。トルエンの場合、もちろん幻覚、錯乱もあるが、慢性になると小脳をやられ、まっすぐ歩けないなどの歩行障害が出現し、遂には立てなくなったり座位すら保てなくなったりする。こういうシンナー中毒はどちらかというと、神経内科範疇なので、このような授業は大学時代には神経内科の臨床講義で聴いた。この話のポイントは、不純物の多いプラスチックボンドの方がより幻覚(幻視、幻聴)が出現しやすいということであろう。

③ これは小説家の対談集か何かを読んでいたときに偶然見つけたものだ。ある小説家はヘビースモーカーであった。彼が言うには、タバコの葉自体はそれほど害がなく、巻いてある紙が有害作用の元凶なのだと。これには笑ってしまった。彼は「タバコは元々薬草でしょ」なんて書いていた。たしかにそういう面はあるかも? ナポレオンの時代は男性の平均寿命が20歳くらいだったという話を聴いたことがあるが、これほどみんなが短命なら、タバコは薬草かもしれない。薬効はもちろん脳への「精神安定」作用である。現代社会ではみんな長生きするようになったので、発ガンや血管への有害作用が非常に重大視されるようになっただけなのだ。


この3つの話は共通点がある。薬物の不純物がより悪い副作用をもたらすと言うもの。ただ③の話だけは喫煙を正当化するような心理学の防衛機制が入っていると言える。だいたい、本当にタバコの紙が悪いのかどうかわからないし。しかし、①と②は経験的なものが主になっているので、そういうバイアスがないように見える。

昨日書いた、

セレネースを処方していた25歳くらいの女性患者さんが大学病院から民間病院に転院した。その時、セレネースのジェネリックを処方されるようになったが、なぜか酷い口渇が出るようになった。あれはあまりにも酷いと言えた。口の中がベタベタになったからだ。そういうのを放置していると、やがて、虫歯が酷くなると思われる。唾液の自浄作用が働かないからだ。(約20年前の話) 

これについてだが、この女性患者はこのままセレネースのジェネリックを使い続ければ、先発品を服薬するより歯を早く失うのは間違いない。また、個人的にはこの年齢でこういう感じだと、女性だけにやがて遅発性ジスキネジアが出現するような気がする。遅発性ジスキネジアとは主に抗精神病薬の長期投与による副作用で、口をモグモグ動かしているように見える。これは精神科入院中の老人に時々見る副作用で、高齢の女性に多い。また老人ホームに行ってみると、何も向精神薬を服用しなくても出ている人がいるので、副作用とは言えないジスキネジアもあるように見える。遅発性ジスキネジアはちょっとした入れ歯の不具合や口渇だけでも促進因子になるので、この若い女性患者さんは、薬物性のジスキネジアが既に出やすい状況といえた。

ただ、先進国、日本の製薬会社が発売するジェネリックで、ここまで品質の悪いものが、現代社会で存在するのか?という問題もある。

ジェネリックの成分的な「同等さ」のみ重視され過ぎている。実際、先発品との薬理活性の相違まで調べた資料が少ない。(ジェネリックの大手、東和薬品が発売している製品にはこのような相違を調べた資料がある) 重要なことは、精神科のジェネリックを数十年という長期にわたり服用した際に、どのような副作用の相違があるのかまで調査したものがないことだと思う。

参考
ジェネリックの都市伝説