深刻な不景気とdepression | kyupinの日記 気が向けば更新

深刻な不景気とdepression

今の若い人は、日本の景気の良い時代を知らない人が増えていると思われる。年代によれば、生まれて以来ずっと不景気という人もいるはずだ。そのような若い人は好景気がどんなものかすら知らないと思う。

日経平均株価は1990年にピークを打ち、未だにその最高値を更新できないでいる。それどころか、半値以下なのである。1992年頃まではまあまあ景気が良かった。その後、未曾有の不景気となり、いくつかの銀行も潰れ、流通の大きな企業も姿を消した。

これは、いわゆるバブル状態が破綻したことが大きな理由と言われているが、はっきりいって、政府、日銀の景気の舵取りが大失敗したことも大きいように思う。このブログで、何故このようなことを書いているかというと、このバブル後の長期の不景気が、人の心理に影響し、ひいてはうつ状態の有病率に大きく関係しているように思うからだ。特に1990年代半ば以降では。

バブルの伏線は1985年プラザ合意以後の急速な円高と低金利などであろうが、バブルはまだ良いとして、その軟着陸に大失敗したことが大きい。僕は当時の三重野日銀総裁が異常な高金利を放置したことと、政府の不動産融資の総量規制が大きな敗因だったように思う。あのペナルティ的な高金利や資本主義に反する総量規制のために日本経済は一時的に死んでしまった。

僕がアメリカやオーストラリアなどに旅行した時、日本の経済がいかに変になっているかを痛感する。現代のように経済学が進歩した時代で、日本のような先進国がこれほどまで長い不景気が続くのはちょっとおかしい。これは経済学がまだよくわかっていない学問であることも暗示している。

僕は看護学校で精神保健を教えているが、男性の自殺は中年以降にどっと増えるのである。このような傾向はここ20年弱の不景気と無関係とは言い難い。今や、日本は自殺大国なのである。

もともと、depression(うつ状態)という言葉には、不景気や恐慌の意味もあり、その点で実勢と合うというか、うまい具合になっていると思う。Depressionはかなり酷い不景気、つまり恐慌かそれに近いものを言うらしく、日本の現在の「不景気」はRecessionと呼ぶらしい。というか、英会話の教師のアメリカ人がそう言っていた。まあ彼らからみると、一番景気が悪かったときの日本でさえ、Recessionにしか見えなかっただろうと思われる。なぜなら、日本は表面上は平和だったからだ。

臨床医は個々の患者さんを救うかもしれない。しかし全体で見れば、たいした人数ではない。まして1人の医師が救える人は。政治家は、時に数百万、数千万の生命を救うこともある。普通、こんな風に言う時、戦争をするか否かなどで語られる。しかし、戦争以外のことでも同じようなものだ。あのバブル後の失政はおそらく何十万の人の生命を奪ったと僕は思う。

景気循環が好転すれば、少なくとも経済的な理由のdepressionが減少し、それによる自殺者も減少するのである。不景気をなんとかできない政府は罪が重い。

ところで、景気循環と躁うつ病の病状推移は非常に似ていると思う。人間の心理の変化で景気は循環するからだ。躁うつ病の患者さんの心理は大きなサインカーブで悲観と楽観の間を揺れ動く。これと似ている。

長い不景気の時期、企業家は新規雇用を減らしリストラを進める。また設備投資も控え借入金も減らそうとする。未来に期待が持てず企業としての将来に不安を抱くからである。しかし、これは結果的にさらなる不景気をもたらすことになっている。ところが、そのうち社会環境が変化し人間の心理が好転してくる。企業家は数ヶ月前なら到底しなかったことをし始める。例えば、借入金を起こして設備投資をしたり新規雇用をすることである。また、業種にもよるが、思い切って新市場に出て行こうとする場合もそうだ。今の日本では、なぜか後半の部分が本格的に起こらなくなっている。

今の日本経済はなぜか躁状態が生じなくなっているのである。プチ躁状態でさえ。

特にここ5年くらいだが、日本だけ世界から置いてきぼりを食らっているのは、やはり日本の少子化も一役買っていると思うようになった。そういう意味では、不景気には僕たちも一役買っていると言える。

しかしよく考えると僕が子供の頃、イギリスは不景気が続き人口も増えないし永遠に浮上しないと言われていた。西ヨーロッパの資本主義国はみな同じようなものだったのである。その後、経済的な面では日本と逆転している。少子化は1つの要因ではあろうが、たぶん決定的なものではない。

近年の少子化であるが、日本人の晩婚化とか、結婚しない人が増えたとか言われているが、結局は日本の経済状態が悪いのが影響していると思う。今は正社員の人が昔よりは少なく、派遣社員のような人たちが相対的に多い。これは長い不景気の後遺症と言える企業の人件費節減によるものである。このように将来に不安がある状況だと、結婚もすることすら決断がいるし、まして子供を作るのは非常に負担なことに思うだろう。そのようなことからも少子化は生じている。このような考え方からすれば、もしバブル後の失敗がなかったなら、日本の若年人口すら今より多かったかもしれない。

医師がバカなのも困るが、政治家がバカなのはその影響力から考えてもっと困るのである。政治家は、失敗したら切腹するくらいの覚悟でやってほしい。