分類不能の発達障害 | kyupinの日記 気が向けば更新

分類不能の発達障害

今年の始め頃にうちの病院に転院して来た患者さんの処方。さて、診断は何でしょうか?

リスパダール 2mg
テグレトール 200mg
リーマス100  200mg
アキネトン   2mg
メトリジン   4mg
リズミック   1T

セレネース 3mg
ヒルナミン 50mg
バルネチール 100mg
ベゲタミンA    1T
ユーロジン 2mg
リボトリール 0.5mg
メトリジン    2mg  (コントミン換算475mg)
他下剤。


紹介状には、とりあえず診断は統合失調症にしているが、発達障害かもしれないと書かれていた。この処方はともかく、前医とその病院はけっこう良いのではないかと感じた。病院が良いと思った理由は、ジェネリックが全然ないことと、本人に聞いた範囲ではユーティリティなどが充実しているような感じだったこともある。前医が良いという理由だが、この患者さんを診始めてから期間がないみたいだし、多剤併用ではあるけどコントミン換算値はたいした量ではない。普通、紹介状の内容を見ればそういうのはだいたいわかる。

最初、この処方は長く治療してこういう結果なので、すぐに手が付けられないと思った。こういうのを急激に変更しようとすると、ほぼ悪い結果になる。しばらくは変えないで様子をみていた。この処方では、メインはたぶんリスパダールなのだろうと思う。475mgのうち200mg分だし。しかし本人の様子をみると、この量でも明らかに副作用が出ていて、パーキンソニズムのためネアンデルタール人のようになっていた。

この人の診断だが、僕の感覚だと明らかに統合失調症ではない。では何なんだと言われると困るが、知的発達障害を背景とする不適応みたいなものと思った。しかし知的発達障害というには微妙な知能なので僕は診断を保留したのである。

一時、アスペルガーかもな~と思っていた時期もあるが、こういう人はアスペルガーと言うべきではないと思うようになった。昔風には「知的発達障害」そうでなければ、「分類不能の発達障害」とでもいえるのかもしれない。DSM4の本を探すと何か診断名が転がっていそうな気もする。

この程度の量でこの副作用なのは、発達障害だから薬に弱いのだと思う。彼に勉強のことなど聞くと、あまりアスペルガー的ではなかった。運動はやっていたが、上手いとも下手だともいえないくらい。

この患者さんは幼少時に虐待を受けているため、一見、アスペルガーに見えるような気がしている。虐待を受けていた人は、そんな風に見えやすいところがあるからだ。

知的発達障害は生来性のものに限らず、後天的な悪条件(虐待、就学させない親、大きな外傷など)による発達の遅れもこれに含めている。一般人にはそうは思われていないけどね。アスペルガー症候群は幼少時は自閉症の診断基準を満たす人がけっこう多い。その後、成長とともに発達が追いつき知能的にはけっこうな水準になる。これは学習障害(LD)との大きな違いだ。LDは後天的に教育、学習がうまく吸収できないため、IQ的にはアスペルガーとは逆の推移になるのである。

この患者さんの場合、幼少時からさんざん虐待を受けた上に、その後ずっと孤児院に入れられていた。だから、元々生来性に何かあったとは言い辛いと思う。その当時を見ていないけど。

不適応を起こして以降、自殺未遂、暴力、器物破壊などがあり入院後は保護室などにも入れられていたこともある。長期に入院していたが、偶然うちの病院に転院することになった。上の処方の問題点があるとすれば、何をもって治療しようとしているのか、焦点がぼけていること。これじゃ、どの薬がどの程度、治療に関与しているのかさっぱりわからない。

この処方でもなかなか眠れず追加眠剤が必要だった。僕はこの不眠に関しては、何かあわない薬が悪影響を及ぼしていると思った。薬を整理すればかえって眠れそうなのである。リスパダールとセレネースはたいした量ではないのに、筋強剛などが出現しているので、やがては止めないといけないだろう。不眠の原因もこの2つのどちらかが悪いように思える。

ただ、この処方は変更しにくいのである。なんとなく。まずセレネースを漸減してリスパダール以外の薬物で治療をしようと思ったが、いかにも必要がなさそうな薬をまず減らした。それはリーマスとバルネチールである。これをデパケンRに置き換え、ついでにテグレトールを消去。これはうまくいった。最終的にはリボトリールもいらないと思ったが、これはアカシジアを緩和していると思ったのでそのままにした。

セレネースとリスパダールだけど、きっとこの人には絶対量が多すぎるのだろう。なぜリスパダール単剤でないんだろう?という疑問はあった。セレネースを減量しつつ、リスパダール以外の非定型を順番に使ってみた。

最初、ジプレキサ、エビリファイ、セロクエルなどで試行錯誤した。特にエビリファイは酷かった。僕は一発殴られたのである。だいたい、かつて虐待を受けているような人は往々にしてその人も暴力的だったりする。暴力的なところはアスペルガーに似ている。空気を読まないところも。この人はかつて器物破壊とか暴力、自殺企図などすべてあるのである。(このあたりが統合失調症的でないところ)エビリファイは浮上させるけど、彼の場合、エネルギーが良くない方向に行ってしまう。

なぜ殴られたかというと、開放病棟から閉鎖病棟に移動を告げた時。ちょっと油断していた。右フックが決まったが、むしろ膝を蹴られたのが痛かった。翌日はひっかるように感じになり、うまく歩けなくなったのである。

必死で治療している人をボコらないでよ。

と言いたい。だからといって、薬漬けにするわけにはいかんしのう。

基本的にリスパダールはともかく、他の非定型抗精神病薬はうまくいかないことがわかった。リスパダールにしても、ネアンデルタール人が解消しないので、もちろん良くはない。

こういう抑うつ気分を伴う統合失調的な症状を持つ患者さんは、古典的定型薬のクレミンやクロフェクトンなどが合うケースがある。これでわりと何とかなる一群の患者さんがいる。仕方がないので、デパケンR、クレミンで治療することにしたのである。

結果だが、素晴らしいほどクレミンがフィット。75mgまで漸増してリスパダールも中止。クレミンはわりあいセロトニン2Aに関与しているが、それでも副作用のためアキネトン(タスモリン)が必要になる人がいる。まあ量にもよるが。現在はこのような処方になっており、現時点ではクレミンはこれ以上減らせないように思っている。レボトミンは5mgか、あるいは必要ないかもしれない。このあたりはまだ漸減中なのである。

クレミン 75mg
デパケンR  400mg
アキネトン   2mg
メトリジン   2mg

レボトミン 50mg
ロヒプノール  2mg
レンドルミン  0.25mg (コントミン換算277mg)
他下剤。


この処方で彼は十分眠れるようになったのである。追加眠剤は現在は必要ない。多剤併用が緩和しており、ようやくネアンデルタール人も卒業。今は開放病棟で加療しているが、かなり落ち着いた状況が数ヶ月続いている。最近は病棟の友人と一緒に外出して食事をしてきたりもしている。転院して約8ヶ月、順調に整理できたと言える。彼はもしエビリファイが合ったなら、主剤がエビリファイ6mg、トロペロン1~3mgくらいになっていたと思うよ。これはこれでけっこう良い処方だと思う。まあ仮定の話だけど。

紆余曲折あったけど、なんとかうまくいって良かったよ。

参考
初診時精神所見
内因性うつ病(非定型の色彩を伴う)
多剤併用についての話