死にゆく精神病院 | kyupinの日記 気が向けば更新

死にゆく精神病院

最近、うちの県でも満床にならない精神科病院が増えてきている。病院によっては、20%も空きが出ていることもあるほどだ。

うちの病院は現在99%であるが、数日前までは95~96%であった。ごく最近、バタバタと入院があってほぼ満床になっただけで、うちの病院も満床で入院させられないようなことがあまりなくなってきている。2~3年前は、うちの病院はほとんど空きがない状態がずっと続いていた。現在は少し様相が変わってきている。なぜ、入院患者がずっと減ってきているのかはいくつか理由がある。

1つは、高齢の患者さんが亡くなっていること。今年だけでも80~90歳台の患者さんが数人亡くなった。基礎疾患は統合失調症とかアルツハイマー型認知症だとかいろいろであるが、ずっと病院にいる人は必ずこの日が来る。精神病院は、まず自然減があるのである。

あと、大きな理由が「少子化」。

精神科病院の長期入院者は「統合失調症」が圧倒的に多い。精神病院とは基本的に統合失調症の患者さんの病院なのである。たまに特別な疾患に特化して治療している病院もあり、「アルコール依存症」などが最も多い場合もある。

現在では、子供も2~3名までが多く、昔のように兄弟が6人とかいて発病したら口減らしのように精神病院に入院させられてそのままというのがない。現代のポイントは子供が非常に少なくなっているので、新規に統合失調症が発病するのべ人数自体が少なくなっていることだ。また、向精神薬の進歩も見逃せない。初発の場合、うまく治療すれば入院期間も短く社会適応のレベルも高いことが多い。今の若い人で精神病院にはまってしまうケースは非常に限られていると言える。

あと、今は子供が少ないのでけっこう精神状態が悪くても、両親が家庭でなんとかみたいという人たちが多いのもある。精神科治療の進歩で病状もそう悪くはならないうえ、わりあい精神症状があっても家庭で過ごすことも多いため、入院治療の期間が少なくなる。結局、かつて若い頃からずっと入院治療をしていた人たちが老いて亡くなった時、そのベッドをうめる人たちがいない。

国は、先進国の中で日本の精神科病床数が極めて多いのを気にしていて、72000床ほど減らそうと画策しているが、心配しなくてもそのくらいは放っておいても減るって。

僕は、かつて僕の年齢以下の人たちは精神病院にはまることはないだろうと思っていた。しかしごく稀に、僕より若い人が病院にはまることもあることを知った。それは、例えば知的発達障害を伴う統合失調症で施設に入れないほどの病状のある人や、知的障害がなくても社会で生活できないほど暴力がある人などである。その他、家族のサポートがほとんど得られないケースも危ない。例えば子供の頃から身寄りがなく孤児院で育ち、その後統合失調症を発病し、その程度がわりあい重いケースである。もちろん家族がいれば退院可能であるが、それがないのでできない。

若い頃からずっと精神病院で生活しているから、いざ共同住居で生活しようにもできないのだけど、悪くても若い頃から家庭で生活しているような人は、レベルが低い場合でもあんがい外で生活できるのである。精神疾患とはそういう風になっている。

うちの病院の場合、近くの病院とわりあいネットワークがあり入退院もそこそこある。だから比較的うまっているといったところ。入退院が途切れたら非常に危ない。なんだかんだいって、全力で良くなるように治療しているので、そのまま良くなって退院していくからである。からであると言うのもなんか変だけど。問題点は高齢者がどんどん亡くなるのでリンゴで言えば、芯の部分が次第に細くなっていっていること。だから、何かの拍子にかなり減ってしまう可能性を秘めている。

このブログの読者は、社会復帰に熱心な病院ほどベッドがうまっているような感覚があるかもしれない。実際はそうでもない。社会復帰のため、共同住居を整備した場合、寛解度が高い人はほとんど退院してデイケアの住人になる。やがてデイケアの住人は、やはり1人で生活したいと言い始め、可能な人は単身でアパートに住み始める。能力が高い場合、福祉工場などで働く人もいるほどだ。数人が退院してそのような生活をし始めると、最初は退院したがらなかった人も後に続くことが多い。

そういう精神障害者を住まわせてくれる大家があまりいないと思う人もいるかもしれないが、実際はそうでもない。今は少子化のために、特に古いアパートはけっこう空いているのである。大学の近所は特にその傾向がある。(定員削減のため。また今の学生は木賃アパートに住みたがらない)そのように社会復帰を進めるうちに入院患者が減っていく。実際、そういう努力をしている病院がかなり病床割れしているケースがある。もちろん社会復帰も熱心で満床に近い状態を維持している病院もある。

うちの病院の場合、一見、外で暮らせそうな人が数名だけいる。なぜ退院できないかと言うと、ある人の場合、外に出ると窃盗をしてしまうからだ。普通、統合失調症でこのような所見は珍しい。普通は統合失調症の人の場合、そのような難しいことができないことが多いから。こういうのは、統合失調症に加え人格的な問題も合併しているとしか言いようがない。社会的に無理なのである。

また、本人が精神病院から頑として出ないケースもたまにある。これは皆は意外に思う人が多いだろうが、精神病院に長く生活するとそうなる人もいるのである。

このように考えていくと、精神病院は斜陽産業もいいところなのがわかる。