精神科医のカルテ | kyupinの日記 気が向けば更新

精神科医のカルテ

精神科医のカルテの書き方は人によって差があるが、患者さんの話すことをそのまま書くことが多いため、他科に比べて日本語の部分が多くなるのではないかと思う。英語ないしドイツ語ないしフランス語の部分は非常に限られているのである。僕は医局に入った頃から特に日本語が多かった。それもひらがなが多いのである。このブログは勝手にひらがなを漢字に変換してくれるので非常に助かる。

精神科医になったとき最も愕然としたことは、「精神科医はドイツ語をやっておかないといけないこと」であった。僕は漠然と精神科はフランス語だと思っていた。医進過程(教養過程)はフランス語を選択したのはそのような考えもあった。語学は合格が決まった直後にドイツ語、フランス語のどちらを選ぶか届けないといけない決まりだったので、大学に入学前に、僕は精神科医になろうと思っていたことになる。結果的にフランス語はドイツ語より教官が優しかったので良かった。落とされる確率が全然低かったからだ。日本の精神医学はやはりドイツの精神医学の流れが大きいので、ドイツ語を選択すべきであった。

いざ、回診時についても、教授の話す精神症状の専門語の意味が全然わからない。そういうこともあり、大急ぎでドイツ語の基礎の教科書を買った。後で気がついたのであるが、ドイツ語は読み方がわからないと用語(スペル)も覚えられないのである。しかし、その後ドイツ語も使われる用語は非常に限られていると思ったので、深く勉強するのはやめた。単に時間の無駄だと思った。

僕のフランス語であるが、後にアルバイト先で、フランス語と日本語でしか記載しない精神科医のカルテを見る時のみ少しだけ役立った。たとえば(ちょっとうろ覚えなんだが)

le rire sans raison

こんな風に書かれていると「空笑」とわかるわけだ。

大学を卒業後2年目くらいで、急に字が下手になったというか、読み辛い字になってしまった。この当時はまだ良かった。他の人も解読できたから。精神科医は書くことが仕事でははあるけど書けば書くほど下手になるってどういうことよ。最近は、一段と読み辛いようになったので、病歴はパソコンで書いて印刷して貼るようにしている。今では自分で書いたカルテでも、たまに何を書いているかわからないことがある。4~5年前はそれでも看護師さんに(下手だけど)まだ読みやすいですよ、と言われていたが、今はそこまではいかないと思う。4~5年前のカルテは、今よりマシなことも書いており出来が良いと思うけど、今のカルテは平板だ。自分で言うのもなんだけど。

まだ駆け出しの頃、アルバイト先の看護婦長さんから僕のカルテは日本語が多すぎると言う苦情が院長に行っていることが判明。

なんで日本語が多かったら、文句いわれないといけないのよ? 
ひらがなが多いのを文句言われるならまだわかるけど。


だいたい、英語ないし意味不明のドイツ語、というかわけわからん宇宙語で書いてあって読めないカルテより、ひらがなの多い日本語のカルテの方が100倍マシと思うぞ。ある時、全然読めないカルテを見ていたら、どうやら専門用語の間のアルファベットはローマ字の日本語記載であることを発見。ある謎が解けた瞬間だった。

僕の場合、ひらがなが多いがわりと長く書くタイプで、ただ最近は特にバカみたいなことしか書かないのが平板と思うところ。僕の先輩で、毎回1行しか書かない人がいた。ある日のカルテ(それも外来)を読んだら、「最近は食事がおいしい」しか書いてないんだな。だから1ページのカルテ(2号用紙)で半年は大丈夫だった。こういう人に文句を言ってくれよと言いたい。

患者さんは精神科医のカルテを気にして覗き込む人はめったにいないけど、あれを仔細に見たら絶句すると思うよ。

これはどうみても知能指数80以下だな・・

と、ショックを受けるから。