クロフェクトン | kyupinの日記 気が向けば更新

クロフェクトン

一般名:クロカプラミン

一風変わった定型抗精神病薬。吉富薬品(現、三菱ウエルファーマ)による自社製品。剤型は10、25、50mgの錠剤と細粒がある。白く円盤型の剤型で割線がなく、真ん中にYという吉富を示すマークとCF10とかCF25などmg数を表す文字がある。1974年発売とかなり古いが、薬価はわりあい高いと思う。50mgで55円くらい。効能はかつては統合失調症、うつ病と感情障害にも効能が認められていたが、今はそのような記載がなくなり統合失調症のみになっている。今でもクロフェクトンを処方するような精神科医は、うつ病圏の患者さんにも処方すると思われる。


薬効は、D2受容体遮断作用はコントミン(クロルプロマジン)と同じくらいだけど、抑うつ気分、無為、自閉などの統合失調症の陰性症状に有効とされている。かつて、陰性症状に効果が期待できる薬物は限られていたが、クロフェクトンは代表的薬物と言えた。クロフェクトンは精神科医になって統合失調症の患者さんに処方して、いきなり痛い目にあった。クロフェクトンを処方して、患者さんが次回の診察に来た時、ナイフで肘部をさっくり切って来たのである。オーベン(指導医)に聞いたら、そういうこともあるんだと。この病状悪化のパターンは、現代の非定型抗精神病薬に通じたものがある。こんなことがあったので、しばらくはクロフェクトンは危険な向精神薬箱に入れられていた。僕の心の中で。


その後、ほとぼりが醒めてから再び処方し始めたが、クロフェクトンと言う薬、合う時はすごく良いのである。これも非定型抗精神病薬に似ている。今から考えると、クロフェクトンの失敗率はジプレキサよりむしろ低いかもしれない。現在、クロフェクトンとこの親戚に当たるクレミンは旧来の薬物ではわりと処方する方に入る。旧来では、基本的メジャーと言えるセレネース、トロペロンと、このあたりの薬物こそ使う価値があると思うのである。


クロフェクトンは病状を悪化させる確率がクレミンよりやや高い。クレミンはクロフェクトンより効果がやや重い感覚はある。ここでいう重いというのは鎮静的という意味である。クロフェクトンはうつ病患者に処方できるほどライトだけど、多く処方すればもちろんEPSは出る。どうせEPSが出るなら、クレミンの方が若干処方する価値があるように思ってしまう。なぜなら抑えが効くぶん、失敗率が低下するように見えるからだ。クロフェクトンで開始して、ジプレキサに変更するとか、その逆とか、ジプレキサからクレミンと言う処方パターンも時々ある。不思議なのは、クロフェクトン単剤もジプレキサ単剤も、同一の患者さんで治り映えが全く変わらないように見えることがあること。


もともと、クロフェクトン、クレミンは5HT2Aの遮断作用が大きいらしい。他の受容体への作用の分布みたいなものは詳しくないのだが、SDA的な薬物プロフィールを持っているようなのである。非定型抗精神病薬すべてでうまくいかなかった場合、クレミンでなんとかやっている患者さんもいる。なお、クロフェクトンの兄弟にデフェクトンという薬物がある。デフェクトンは一般名はカルピプラミンと呼ばれ、剤型は緑の恐ろしい色をしている。この薬、入っている病院を見たことがない。賦活系なのだがほとんど処方されていない薬物と思われる。用法からして、「他の抗精神病薬の効果が不十分な時に付加して使用する」なんて書かれてある。単剤で処方できないなんてどうしようもないじゃん。この時代に、あまりにも大きな制約だろう。そんなこともあり、デフェクトンが絶滅品種なのはやむを得ない。しかし、それでもなお、この辺の薬物は存在感があると思うのである。


ところで、吉富薬品という製薬会社は、比較的、精神科薬に特化した製薬会社とはいえ、開発力がある会社と思うんだな。デパス、リーゼ、クロフェクトン、クレミンとかすごいでしょ。車を自国で作れる国は限られていると思うのだが、ざっと挙げてみると、


車を自前で作れる国

アメリカ
ドイツ
日本
イギリス
フランス
イタリア
スウェーデン
韓国


まあ、他にも自国で作っている国もあるんだろうけど、他国でも売れるような競争力を持つ製品を作れる国はここに挙げたくらいだと思う。薬品も同様で、日本で販売されている向精神薬の開発国は限られていると思うのである。ただ、上の車のメンバーと違うのは、スイスやベルギーなどが入ってくるところ。旧・吉富薬品以外でも、日本人は、ロドピンやエビリファイなど世界に誇れる薬物を生み出している。セディールなんかもなぜか中国に輸出されているらしい。ルーランもこれ自体は発売されないと思うが、代謝物のルラシドンがアメリカで治験されているらしい。僕は、こんなことにも国力が表れていると思うのである。