統合失調症の診断は・・ | kyupinの日記 気が向けば更新

統合失調症の診断は・・

先日、強迫性障害の患者さんが新患で来た。その患者さん高校時代から強迫症状で悩んでいて、治療もしていたのだがたいして良くなっていなかった。数軒、精神科あるいは心療内科クリニックを廻っており、うちの県では僕の病院が2軒目。(それまでは他県だった) ちょっと面白いと思ったのが、その前に行ったクリニックが僕の良く知っているドクターだったこと。かなり親しいほうであるが、最近はあまり会っていない。後輩になるのだが、年齢は僕よりかなり上だ(8歳くらい上) 出身大学は違うが同じ医局に入局しているので、診断には基本的に同じような感覚になりそうだが・・ その新患の人だけど、彼に統合失調症と言われたらしい。

うーん・・その人、統合失調症ではないんですけど・・ 
確かに妄想など、いかにも統合失調症的なものが存在しているが、悩んでいる症状は強迫性障害の部分が大きい。顔が統合失調症ではないのだよ。顔がそうだとか言うと、皆、笑うかもしれないけど、これは診察時の表情の動き、眼の動き、会話時の対応、立ち居振る舞い全般が入る。基本的に、現在、統合失調症とは程遠いし、今後、統合失調症にはほぼ100%ならないと思われる。おそらく、統合失調症になるには道筋が違っている。

さて、彼がその患者さんにそのような告知をした理由だが、これはいろいろな考え方がある。僕は精神科医としては患者本人や家族でさえ、不必要な告知はしないタイプで「あなたの娘さんは統合失調症です」とかはほとんど言わない。たまに告知することがあるが、これはそれなりに理由がある。例えば、そうでも言っておかないと患者さんの家族が治療を真面目に受けさせようとしないケースなど。やはり状況による。基本的に告知しない理由は、通常はあまりそうするメリットがないと思っているからだ。今回の場合は、まず告知しようもしないも統合失調症ではないので、統合失調症ではないという告知はした。しかし、本人はわかっていいるようで、洞察自体はあいまいといえた。その友人の医師に統合失調症といわれたからといって、そうショックを受けたと言う感じでもなかったんだな。その告知した友人だが、なぜそんな風に言ったかが相当に謎だ。なぜなら同じ医局なので、明らかに統合失調症ではないのは彼にもわかるような気がするからだ。更に、そんなタイミングで確実ではないことを告知するものだろうかと言うのもある。本人が1人で来ているのに、本人にそんな告知をするなんて僕にはできない。

今はやりの操作的診断法(DSMなど)では、ある所見があって、なおかつ症状の継続期間があれば、容易に統合失調症になる(症状の継続期間がけっこう大切)。たぶんDSM4的診断法では、その患者さんは統合失調症なのであろう。うちの大学ではそんな教育はされなかったので、そんな診断はしない。だいたいそのDSM4も普段は必要がないのであまり見ない。だからこそ、その友人の告知は相当に謎なのである。今度会った時に、そのとき憶えていたら聞いてみようと思う。いずれにせよ、操作的診断法は相当に弊害があると思うんだな。本人を診ずに所見だけで、いわゆるコンピュータ的に診断してもまぎれが出ないはずはない。だったら、その患者さんはなんなんだと言うことになるが、基本的には強迫性障害(強迫神経症)で問題はない。あの統合失調症と変わりがないような妄想は何かということになるが、古典的には「クレッチマーの敏感関係妄想」くらいになるんだろう。「敏感関係妄想」については、グーグルで検索するとたくさん出てくるので調べてほしい。(直接リンクは避けたいので)

さて、治療なんだが、その人は専門職でずっと仕事は続けているし、今までSSRIとかリスパダールなどで酷い副作用が出たとか言っていたので、ワイパックスだけ処方した。このずっと専門職で仕事が続いているとか、抗精神病薬で副作用が出まくるというのも統合失調症的ではないと思うのである。(まあ、これはアテにはならけど) いきなり強い薬だと、そういうのは今までに服用しているし、続かないと思ったのもある。最終的にはジプレキサやセロクエルなどの非定型抗精神病薬は合いそうな感じもするが、これは相当にリスクがあるので最初からは処方しなかった。こんな患者さんは治療があまり続かないと思う。いつか、また他の病院に行ってしまいそうな気もしている。


481投稿者:kyupin  投稿日:2003年03月20日(木) 00時35分16秒
最近、思い始めたことだが・・ 僕は基本的にあまり告知をしない。特に統合失調症についてはそうだ。うちの出身大学がそうだったから、その伝統みたいなものを引き継いでいるのだろう。上の先生もたいていあまり告知をしない人が多かったような記憶がある。統合失調症の診断はかなり厳密なものなので、有病率を考えればわかるが、こういった診断は当然多い。というよりこれはサイエンスなので、あるものをないとはいえない。この診断方法は決して操作的なものではない。(実は操作的診断法が嫌いなのである) しかし、僕の病院の副院長は僕より4~5年後の入局だが、このあたりのスタンスが微妙に異なっている。かれは僕からみるとかなり告知する。(まぁ今時、この方が普通だ) 

以前、まだ入局まもない頃だが、明らかに統合失調症とわかっていて診断書にはそう書かないことは是か非か問うたことがある。そのときの教授の返事は「書かなくて良い」だった。この返答がずっと僕のベースにある。普通、診断書にそれを書いてしまうと、例えばクビになる場合、精神科医は非常に悩む。それというのは当然、「統合失調症」である。例えば、彼がパイロットの場合、これは書かざるを得ない。そういう人に普通そのような責任のある仕事はさせられない。だから、一般の利益と本人(=患者)の利益を総合して判断する。僕は診断書についてはこういうスタンスだ。時々?あるいは稀に、非常に正直に書く精神科医がいたりする。彼は地域の中小企業のオーナーに絶大な信頼を得ている場合がある。というのは、すぐに統合失調症の診断書が出るので、本人をクビにしやすいためだ。これは精神科医の立場としてはどうかと思う。

今回、僕が問題にしたのは、本人、家族に対しての「病名」の告知である。非常に微妙なケースである場合、僕はまずと言ってよいほど告知はしない。普通、僕から統合失調症の告知はなかなか聞けない。家族も同様だ。まず、病名こそ最近変わったが、この疾患の意味の重さがある。患者さんが精神科に受診し、いきなり落胆させるのもちょっと気が引けるのもある。微妙な患者さんで、他の医療機関でそう診断されないだろうと思われるときはかなり気が楽だ。もう少しはっきりした統合失調症の場合、これは総合的に判断する。例えば家族が付いて来て、そうでも言っておかないと治療が続かなかったり、あるいは服薬を家族がさせないような事態も予想されるときは、かなり真実に近いあたりを話す。完全に告知する場合もある。あと、深刻な状況でECTが必要な場合で、そうでも言っておかないと了解されない場合も告知せざるを得ない。稀に家族が全くあてにならず、本人しか話せない場合で、前後の状況から告知した方がプラスの場合は本人に告知する。こう書いていくと、けっこう告知してるじゃんと思われるだろうが、全体ではそう多くはないのだ。

この2~3年で、統合失調症かどうか非常に微妙なケースを幾度となく診てきた。すべて僕の判断で告知はしていない。僕が非常に微妙と思うようなケースは、相当微妙なのである。(何を言ってるかわからないと思うが・・) 当然、薬物は人にもよるが、たいていは抗精神病薬を処方している。人によっては抗うつ剤も併用している。ざっと思い浮かべてみると、誰一人として決定的な破綻がない。もう再就職して元気にすごしている人もいる。僕の患者はスケジュールの関係でたまに副院長も診ている。彼は言う「あの子危なくないですか?」僕は「十分に危ないよ。それどころか既にそうかもしれない」

おそらく、うまい下手ではないのだと思う。こんな疾患はやはり心の病気なので、主治医の心の持ち方が非常に関係があるのではないのかしら。主治医が「統合失調症」だと思っていると、その子もきっとそういう風になっていくのだろう。家族も思っていたらなおさらだ。家族がそう告知されると、じゃ仕方がないというか、周囲も本人も積極的に良くなっていこうというような姿勢が損なわれるのが大きいような気がしている。彼らは、家族もそう思っていないし、僕もそう思っていないので、きっとそうならないのだろう、と控えめに思ったりする。
(過去にアップした日記から。少しだけ加筆しています)。